会社を辞めてから始まる社長との恋 のすべてのチャプター: チャプター 61 - チャプター 70

　彼女のその一言で、シンプルな食事がワケありのデートとなった。入江紀美子は彼女を見つめ、口を開こうとしたら隣の渡辺翔太が喋り出した。「晋さん、お久しぶり」彼の落ち着いた声は春の風の如く、紀美子の不安を振り払い、少し落ち着かせた。そうだ、彼女はもう森川晋太郎との付き合いが終わったので、彼に誤解されることを心配する必要はなかった。晋太郎の眉間は寒気を帯びていた。「楽しそうじゃないか」翔太は笑ってごまかした。「まあね」狛村静恵は晋太郎に「晋さん、こちらのお二人、なかなかお似合いだと思わない？」晋太郎の底なしの瞳にはいかなる情緒も見えず、ただ「うん」とだけ唇を動かした。翔太は静恵を睨み、視線を戻して紀美子に「行こう、送ってあげる」と言った。紀美子は唇を動かし、「大丈夫」の一言がまだ言い出せないうち、翔太は「あの辺は夜だと物騒だから」と続けて言った。腹の中の子供を考えて、紀美子は頷いた。晋太郎とすれ違った瞬間、紀美子は彼の目の中に隠された挑発の目線に気づいた。帰り道の途中。「敢えて代わりに解釈しなかったけど、怒ってないよな？」翔太は軽く笑いながら聞いた。紀美子は落ち着いた声で、「もう手放したのに、怒ったりなんかしないわ」「君はますますうちのお母さんに似てきた気がする」翔太は少し口元の笑みを収めた。紀美子は彼の言葉の意味がよく分からなかった。なにせ彼の母親はどんな人なのかも分からないのだ。「じゃあ、あんたは私のことを妹と見ている、と理解していい？ちょっと恥ずかしいけど」紀美子は答えた。翔太は一瞬ぼんやりして、「確かにそう理解していいかも」と笑って言った。紀美子「……」……家に戻り、紀美子はシャワーを浴びてから机の前に座りパソコンを立ち上げデザイン稿を描き始めた。彼女はデザイン稿を仕上げ、細かくチェックしてからベッドで横になった。寝付いたばかりで、外から大きなノックの音がした。紀美子は激しく鼓動する心臓を押えて、警戒しながらドアの方を眺めた。こんな夜中に、一体誰なんだろう？もしかして年末だから悪い人が？！紀美子は恐る恐ると電気をつけ、音を立てずにドアに近づいた。ドアの覗き穴を通して覗くと、悪者は見えないが、顔が赤く染まった晋太郎が目に映った。紀美子は眉を寄せ、ドア

紀美子は微かに驚き、気がつくと自分が晋太郎の寝室にいることに気づいた。額を揉みながら思い出そうとしたが、彼がどうやって自分をここまで連れ戻したのか全く覚えていない。足音が聞こえ、やや暗い表情の晋太郎が目の前に現れた。彼はベッドに近づき、紀美子を見下ろしながら冷たい声で言った。「目が覚めたか？」紀美子は彼を一瞥し、不機嫌そうに応じた。こんなくだらないことを聞いて何になるのか？彼女の目に浮かぶ冷笑を見て、晋太郎の顔がさらに険しくなった。「お前には感謝の気持ちがないのか？連れ戻してやったのに、ありがとうの一言もないとはな。」「ありがとう。」紀美子は目を伏せて静かに言ったが、その声には感謝の意が微塵も感じられなかった。晋太郎は喉を一度鳴らし、この女はいつも彼を苛立たせる天才だと再確認した。少し間を置いてから、彼は再び尋ねた。「どうしてちゃんと食事をしないんだ？栄養失調になって楽しいのか？」紀美子は唇をきゅっと結び、言葉を発さず、頭のふらつきをこらえながらベッドから降りようとした。「紀美子！」晋太郎は彼女の肩を押さえ、怒りを含んだ目で見つめた。「俺を怒らせて、縄で縛りつけられたいのか？」紀美子は冷たく彼を見上げ、「あなたにはもう私を閉じ込める権利はないわ！」と鋭く言い返した。晋太郎は一瞬たじろいだが、すぐに複雑な表情を浮かべ、眉をひそめて言った。「体力が回復してから行け。」昨晩の出来事を思い出し、紀美子は彼の言葉を信じる気にはなれなかった。彼がまた自分を無理矢理にするかもしれないという恐怖がよぎった。紀美子は黙々とスリッパを履き、部屋を出ようとした。「そうやって出て行けると思うなら、止めないさ。」晋太郎はその場に立ち、軽く鼻で笑った。紀美子は動きを止め、自分の着ている服を見下ろした。それが晋太郎のシャツだと知ると、顔が急に赤くなった。「私の服はどこ？」彼女は羞恥心と怒りで彼を睨みつけた。紀美子が怒りに満ちた様子を見て、晋太郎は微笑みを浮かべた。「汚い服で俺のベッドに寝るなんて許せると思うか？」あなたの方が汚いわ！紀美子は心の中で悪態をついた。少し躊躇した後、彼女は晋太郎の寝室を出ることにした。しかし、階下には降りず、以前自分が使っていた部屋へ向かった。クローゼットを開け、晋太郎が以前贈ってくれたが、持

晋太郎は彼を一瞥し、何も返答しなかった。彼は父親として晋太郎の性格をよく理解しており、その場で怒りをぐっと抑えた。「晋太郎、お前は、どんな女性がこんなに短期間で婚約する決断をさせたのか教えろ」晋太郎は冷たい視線で父親を見つめ、「あなたは僕が8歳の時のことを忘れたのか？」父親と森川裕太は表情を固くした。父親が言った。「当時、お前を助けた女の子を見つけたのか？」 「はい。」晋太郎は冷たく答えた。彼は口ごもる。この数年、彼の息子がその女の子を探していたことは周知の事実だ。その女の子に対する助けに対して感謝しているが、森川家の嫁は家柄が合わなければならない。父親は言った。「見つけたなら、金と家を渡せばいい。家に連れて帰る必要なんてないだろう？」 晋太郎は冷笑した。「彼女がいなかったら、お前は僕がここに座っていると思うか？」父親は眉をひそめ、「晋太郎！」「父上！」晋太郎は突然立ち上がり、言葉を遮った。「他に用がなければ、俺は先に行くよ。そして、俺の結婚のことは構わないでくれ！」言い終わると、晋太郎は外に向かって歩いて行った。裕太見ると、すぐに声を出して叱りました。「晋太郎！父親にどうして話したんだ！」晋太郎は足を止め、冷たく裕太を見つめて言った。「お前が私に話しかける資格があるのか？」裕太は顔を赤くしました。「私はお前の兄だ！」「兄？」晋太郎は冷笑しました。「昔、お前のせいで、私は誘拐されて外で死んでいたかもしれないのに？」裕太は固まり、黙ってしまった。晋太郎が去った後、裕太は父親に向かって言いました。「父上、もし彼を放っておくなら、いつか彼はあなたを潰しに来ますよ！」父親は彼を睨みつけて言った。「それなら、私に少しでも気を起こさせてみろ！」裕太は恐る恐る頭を下げ、もじもじと言った。「私は努力していると思うのですが…？」晋太郎は足早に外へ出た。晋太郎が車に乗ると、杉本が振り向いて言った。「森川様、先ほど電話で、入江さんの身元を調べている人がいると連絡を受け取りました。」晋太郎の体から気配が一気に落ちた。「誰だ？」杉本は言いました。「相手の情報はまだ分かりませんが、彼らは孤児院に向かっています。」晋太郎は目を細めて言った。「引き返して、孤児院に向かえ。」 資料室には日が暮れる

紀美子は何も言わず、晋太郎も問い詰めることはなかった。消防隊と警察が来た後、紀美子は事情聴取を終えると晋太郎に連れられて病院に行った。医者が肺の検査をした後、何も問題がないと言われて帰宅した。帰り道、紀美子は眠くなってきた。車のドアにもたれかかっている頭が時折ぶつかる。晋太郎は唇を引き締め、手を伸ばして紀美子の頭を自分の肩に寄せた。運転している杉本が後ろを見て、思わず笑ってしまった。森川は口では強気だが、心の中では入江さんのことを考えていた。2時間後、ジャルダン・デ・ヴァグに到着した。晋太郎は紀美子を車からおろそうとしたが、彼女の脚に触れた途端、彼女は目を開けた。驚いて座席に身を縮めた。男性が晋太郎であることに気付いてから、再び目を伏せた。静かな声で尋ねた「団地に着いたんですか？」「ジャルダン・デ・ヴァグだ。」晋太郎は彼女を冷たい目で見つめた。紀美子は気がつき、目を見開いた。「ジャルダン・デ・ヴァグ？！いや、私は帰ります。」晋太郎は眉をひそめ、声を低くして言った。「紀美子、自分の運は良いとでも思っているのか？」紀美子は唇を噛みしめ、低い声で言った。「私はボディーガードを雇えます。」「いつまで雇えるのか？」晋太郎は冷笑した。紀美子は黙りこんだ。彼女には長期間のボディーガードを雇う余裕は無かった。しかし、晋太郎と静恵は婚期が近づいているし、ここに住んでしまえば、それこそ第三者になってしまうのではないか？膠着状態の中、杉本の携帯電話が突然鳴った。彼は車を降りて電話に出て、しばらくして急いで戻ってきて言った。「森川様、放火犯の数人を捕まえました。ここに連れてきますか？」紀美子は急いで顔を上げ、晋太郎の視線とぶつかった。男の目には微かな笑みが浮かび、紀美子が選択をするのを待っていた。紀美子は目をそらし、「話を聞いたらすぐに帰ります。」この言葉を残して、紀美子は車のドアを押し開けて別荘に飛び込んだ。 一方、帝都国際ホテルでは。静恵は大樹からの電話を受けた。「つまり、晋太郎も孤児院にいたって言いたいの！？」静恵は怒りに狂い、顔をひねり上げた。大樹は息を荒らして言った。「今も晋太郎のこと考えてるのか？俺の仲間がみんな捕まったんだぞ！もしやつらの口が堅くなければ

紀美子と佳世子は暗黙の了解で目を合わせた。彼女たちは壁際で立ち聞きしようとせず、直接個室に向かった。しかし、2歩も進まないうちに、晋太郎の言葉が彼女たちを凍りつかせた。「妊娠してるのか？」男の低い声が驚きで満ちている。静恵は悲しそうに頷いた。「もう1か月経つわ、晋太郎。私は子どもを使ってあなたと結婚させるつもりはない。あなたが望まないなら、中絶してもいいわ。」「必要ない！」男の声は非常に冷たかった。紀美子は氷水を浴びせられたかのように全身が凍りつき、その場で硬直した。晋太郎の口ぶりから察するに、彼は静恵のお腹の中の子を受け入れるつもりなのだろうか？「紀美子……」佳世子は心配そうに彼女を見つめた。紀美子の睫毛が震え、「行こう…」佳世子は彼女を引き連れて個室に向かい個室に入ると、紀美子はぼんやりと座り、手を腹部に当てて、心の中でぐっと押さえつけた。一瞬、紀美子は自分が子供を持っていることを後悔した。 もしも以前に晋太郎に入れ込まなければ、子供は父親のいない存在になるはずがなかったのだから。「紀美子？紀美子！！」 佳世子の声で紀美子は我に返り、呆然として急いでいる佳世子を見た。佳世子は手に持っていたティッシュを紀美子に差し出し、「恥ずかしいから、涙を拭いて！」 紀美子は無意識に顔を触ったが、いつ涙で濡れていたのかも分からなかった。「泣かないで、どうせなら私が一緒に子供を育ててあげる！」佳世子が慰めた。「男ってクソ、妊娠している人になぜこんなに冷たくするの？」 紀美子は静かに言った。紀美子は、隣の部屋にいる彼に見つかりたくなかった。 そして静恵の得意げな顔を見たくもなかった。佳世子は白目をむいて、「聞こえてもいいじゃん！仕事なんてやめちゃえ！静恵の偽善的な振る舞いを毎日見るのはもう嫌だから！」紀美子は佳世子の手を叩き、彼女の荒れた気性をなだめた。「もう大丈夫、気にしないで。」佳世子は言った。「大丈夫に見える？さっきまで霊魂が抜けたようだったよ！静恵が人を奪うことを知っているのに、なぜあなたは自ら退くの？本当にあなたに腹が立つわ！」紀美子は言った。「私を二人の間に入れて、一生頭を上げられないようにしたいの？」「愛人という言葉にはもううんざりだし、彼らの間の第三者にはなりたくない。今