All Chapters of 会社を辞めてから始まる社長との恋: Chapter 81 - Chapter 90

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第81話 お前は嘘をついている

 入江紀美子は何も言わずに、静かに彼女の演技を眺めた。森川晋太郎が目の前まで来てから、紀美子は彼に聞いた。「私、上に上がっていい?それとも奥様の許可が必要?」紀美子のその挑発的な言い方に、晋太郎は眉を寄せた。「ちゃんとした喋り方はできないのか?」その会話を聞いた狛村静恵の顔は真っ白になった。彼女が晋太郎の話の意味を理解できないはずがない。紀美子はどういう身分で晋太郎をこんな態度にさせているのだ?それに、このふしだらな女は一体ここに何をしに来たのだろう。静恵の顔色が急に変わったことに気づいて、紀美子の気持ちは極めて痛快だった。紀美子は俊美な顔を持つ男を見て、「できないことはないわ、先に上がって片付けてるわね」そう言って、紀美子は階段を登ろうとした。しかし彼女は登り始めてすぐ、いきなり階段で倒れた。彼女は無意識に手を腹の下に当てたが、膝の痛みに顔を歪ませた。階段から音が聞こえた晋太郎は、倒れた紀美子を見て顔色を急に変えた。彼は大きな歩幅で階段を登り、紀美子の体をすくい上げた。彼女の転倒して赤く腫れた膝を見て、晋太郎は冷たく怒鳴った。「お前、目がないのか?!階段を登るくらいで転ぶバカがどこにいるんだ?!」紀美子は手を引き、「ありがとう、社長さん。ちょっと眩暈がしただけ。もう大丈夫だから」もちろん、転んだのも眩暈がしたのも演技だった。静恵ができる演技は、彼女だってできるわけだ。残ることができれば、どんなに破廉恥なことをしても構わない。晋太郎はきつく眉を寄せながら、優しい声で「一体どうしたんだ?」と尋ねた。紀美子は冷たい声で答えた。「大丈夫って言ってるでしょ!」紀美子はそう言いながら手を引き戻し、階段の手すりを持って上がっていった。晋太郎は歯を食いしばり暫く黙り込んでから、いきなり紀美子を横抱きして階段を登った。そのシーンを目にした静恵の怒りが頂点に達した。このビッチ、何をしてくれてんの?!静恵は続いて階段を登ったが、晋太郎が紀美子を抱えて寝室に入るのを黙って見ていることしかできなかった。この時の静恵の目線は劇薬を盛られているかのように鋭かった。彼女はここに住み始めてから大分経つが、晋太郎の寝室に一度も入れたことはなかったのに!晋太郎は紀美子をベッドに寝かせ
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第82話 物を取りに戻ってきた

入江紀美子は暫く横になり、十数分後、松沢初江が食べ物を持ってきた。紀美子を見て、初江は嬉しそうな顔で言った。「よかった。やっと戻ってきましたね、入江さん」紀美子は体を起こし、軽く微笑んだ。「今回はものを取りに戻ってきただけよ、初江さん」初江は食べ物をテーブルの上に置き、軽くため息をついた。「あなたが残ってくださればよかったのに」紀美子は少し黙り込んで、「狛村さんは面倒くさい人なの?」と言った。初江は苦笑いをして何も言わずに、スープを混ぜて冷ましてから紀美子に渡した。「また痩せたんじゃないですか、暫くはここに残って、私がお体を養ってあげますから」初江は彼女に勧めた。紀美子はスープを受け取り、暫く黙ってから、「初江さん、本当のことを教えて。静恵はあなたに酷いことをしたの?」と言った。「仕方がありませんよ」初江はため息をついて、「私ね、あなたが戻ってくださればよかったとよく思っていました」紀美子は一口スープを飲み、唇を舐めて、「初江さん、私はもう戻ってくるつもりはないのよ。けど、彼女をこのジャルダン・デ・ヴァグから追い出すことはできると思うわ。この件、初江さんにちょっと手伝ってもらう必要がある」と言った。言いながら、紀美子は初江を見上げた。清らかな瞳には揺るがない光が漂っていた。初江は驚いて目を大きくした。「入江さん、あなた、それは何の為に……?」入江は深く息を吸ってから、静恵が母親にしたことを大まかに説明した。話を聞いた初江は怒りを抑えきれず、「入江さん、手伝います。あとで戻ってから、どうするかをよく考えておきます」と言った。紀美子は頷き、初江に「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えた。……午前1時。部屋のドアが押し開けられ、紀美子は視線を携帯電話から戻し、入ってきた静恵を見つめた。静恵は目が真っ赤になり、ベッドに近づいてきて低い声で口を開けた。「紀美子!あんた、まったく破廉恥なことをしてくれたじゃない?」紀美子は無表情に静恵を見つめ、「あんたが先に破廉恥なことをしてくれたから、私はただ反撃をしているだけよ」と言った。静恵は両手の拳に握った。「あんたはものを取りに来ただけじゃない?!取ったらさっさと出てってくれない?人の婚約者に付き纏って恥ずかしくないの?あんたほど恥知らずな人なんて見
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第83話 戻ってきたくなった?

 朝食の後、入江紀美子は2階に戻った。森川晋太郎の部屋に戻ろうとした時、狛村静恵はドアを開け紀美子の前に来て、彼女の腹を眺めて、「そろそろ4か月になるんじゃない?」「何が言いたいの?」紀美子は警戒した。静恵はワケがありそうな笑みを浮かべ、「あんたはずっと晋太郎さんに教えていないけど、彼に知られたらその子を堕ろさせられるから?それとも彼に黙って外で破廉恥なことをして別の人の子を授かったから?」「皆があんたみたいな人間じゃないわ」紀美子はあざ笑った。静恵は一瞬言葉に詰り、「じゃあ何で晋太郎さんに私のことを言わないの?」「今更言っても何の意味があるの?」紀美子は静恵に一歩近づいて迫ってきた。「私はただ、あんたに注意したいだけだわ。あんたを煮えくり返らせ、あんたが焦って、怖がってそして怒り狂う表情を見れれば、私は気持ちいいのよ。あんたはせいぜいこの子が晋太郎さんのものだと祈るがいいわ。でないと、あんたの結末は私以下だから」紀美子はそう言って、視線を戻して部屋に戻った。静恵は毒々しく閉められたドアを見つめた。もうすぐ紀美子はそんないい気でいられなくなるから!そして、彼女は晋太郎の書斎を眺め、歩いて入った。晋太郎の部屋には金庫があり、3段階のロックがかかっていた。静恵は眉を寄せた。以前八瀬大樹から聞いたが、オーダーメイドで作った禁固のようだ。3段階のロックのうち、一つだけ本物で、他の二つを解除しようとすれば警報が鳴る。静恵は唇を噛みしめた。晋太郎の事務所にはそんなものはなかった。やはり、会社で探すしかない。静恵は適当に本を一冊取り書斎を出た。部屋に戻ってから後輩の秘書にメッセージを書いた。「チャンスを作って入江を会社に呼び出して」秘書はメッセージを読み、慌てて紀美子に連絡を入れた。「入江さん、今お時間大丈夫ですか?」紀美子は携帯でニュースを見ていたので、すぐに返信した。「大丈夫だよ、どうした?」秘書「入江さん、ちょっと会社まで来てもらえます?」秘書は大まかな経緯を説明した。紀美子は少し考えてから返事した。「分かったわ。まだそのドキュメントを弄らないで、今行くから」彼女は今もうMKの社員ではなくなったので、会社に入るには晋太郎の許可が必要だ。紀美子は晋太郎の
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第84話 与えられるのは身分と金だけだ

 入江紀美子は笑みを浮かべ、「それはどうも。もしかしてまた私と狛村静恵が喧嘩になるのが怖いから?」森川晋太郎は眉を顰め、視線を紀美子の潤んだ唇に落とした。「入江、あまりいい気になると、その口を塞ぐぞ」紀美子「……」相手が頭の中ではセックスしか考えていない男だと思い出して、紀美子は口を閉じることにした。晋太郎が事務所を出た後、紀美子は元の自分の席まで歩いた。彼女は自分が使っていた事務用品を手で触っていると、脳裏にこの三年間真面目に仕事をしていた光景が浮かんだ。静恵が現れるまでは、彼女は自分が晋太郎とは長い付き合いになると甘く考えていた。だが残念なことに、その幼稚な考えは現実に撃ち砕かれた。紀美子は軽く息を吸い、気持ちを整理してからドアを開き秘書室に入った。しかし彼女の姿が消えてすぐ、静恵が廊下に現れた。彼女は袋を持って晋太郎の事務室の前でドアをノックした。視線はドアに落としているが、横目で廊下の防犯カメラを眺めた。返事がないので、彼女はドアを開けて中に入った。彼女は晋太郎のスケジュールを良く知っているので、わざとこの日を選んで会社に来た。晋太郎の席まできて、静恵はゴージャスなお菓子を晋太郎の机の上に置いた。そして彼女の目線が横に置いているキャビネットに落ちて、緊張しながら近づいた。秘書室。紀美子が職場に現れ、若い秘書たちが皆はしゃいで挨拶しに囲んできた。中にはボスが厳しすぎると文句を言いつけてくる人までいた。紀美子は笑顔で皆に返事している時、秘書長の佐藤は少し離れた所で白い目を向けていた。佐藤「あのビッチの偉そうな顔見た?まるで会社が彼女がいないと回らなくなるみたいな!」秘書の白原は驚いた。「彼女は会社に戻ってきたの?!」佐藤「黙って!彼女が戻って来たら私は昇進できなくなるじゃない!」白原は不満げな表情で「実は私たちは彼女に嫉妬してるじゃない。能力がある上に、社長の愛人でもある、とね」佐藤は白原を睨み「あんた、何もかも分かってるような言い方はやめてよ。あんただって彼女のことを嫉妬してたじゃない」白原はあざ笑った。紀美子がいないこの間、彼女はよく分かってきた。事実、彼女の能力は彼女達全員を凌駕していた。紀美子が秘書室を離れた最初の数日、皆に押しかかってくる仕事で大
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第85話 これくらいの仕事もちゃんとできないのか

 入江紀美子はそう言って、静かに視線を戻し森川晋太郎の返事を待たずに事務所を出た。二人が行為をする光景を思い浮かべると、吐き気がしてきた!一緒に食事をするのは無理だ。彼女は何もなかったのように彼と飯を食べることはできない。さきほど彼に聞いたのは、単純に狛村静恵が暴れたいけどできない姿がみたいだけだった。会社を出て、紀美子は深呼吸をしてやっと自分を無理やりに落ち着かせた。腕時計を覗くと、今戻ればまだ間に合いそうだった。タクシーでジャルダン・デ・ヴァグに戻ると、松沢初江が迎えに出てきた。紀美子を見て、初江は催促した。「入江さん、早く。狛村さんは今携帯電話をテーブルに置いてお風呂に入っています」「分かったわ、できるだけ彼女の足止めをして」静恵が住んでいる部屋には浴室がないので、彼女にはまだ物を手に入れるチャンスがある。初江は頷き、一枚の紙を紀美子に渡した。「これは狛村さんの携帯電話のパスワードです。こっそり覚えておきました。」「ありがとう、初江さん!」紀美子は感激した。紀美子はパスワードが書かれた紙を握り締め、電気がついている浴室を眺めて急いで静恵の部屋に向かった。部屋に入ると、静恵の携帯電話はテーブルの上にあった。紀美子は緊張しながら携帯リーダーを静恵の携帯に繋げた。ポートが繋がる瞬間、静恵の携帯画面に進度ゲージが表示された。一番下の完成度を見つめながら、紀美子は唾を飲んで外の動静に耳を尖らせた。50パーセントになった途端、隣りの部屋から音がした。紀美子の心臓はこくんと止まりそうになった。その時、初江の声が聞こえた。「狛村さん、バスタオルはまだ乾燥機にかけています!今日は天気がよくないですから、すぐ持ってきますね」「松沢さん!何してるの?!これくらいの仕事もちゃんとできないの?」初江は適当に彼女をごまかしてドアを閉めたが、今度は庭から車のエンジンの音が聞こえてきた。晋太郎が戻ってきた!紀美子は更に緊張した。初江は心配そうに聞いた。「入江さん、まだですか?ご主人様もお戻りになりましたが!」「もうすぐ終わる!」紀美子は返事した。掌の汗を拭きとり、完成度が100%になってから、彼女はリーダーを取った。携帯電話をテーブルに戻して、紀美子は静かに部屋から出た。晋太郎の部屋の
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第86話 雪が降った

 入江紀美子のその怒りっぽい顔を見て、森川晋太郎はドアに寄りかかり、「少し楽になったか?」と聞いた。紀美子はなんとなく「うん」と答えた。晋太郎は体を斜めにして、「行こう。連れてってやりたいとこがある」紀美子「???」もう午後9時過ぎなのに、彼は彼女をどこに連れていくつもりだろう?……北区、山腹。片道2時間の距離のため、紀美子はとっくに助手席で寝てしまっていた。晋太郎は車を止め、隣で体を丸めている紀美子を見て、目線は幾分と優しくなった。彼女の寝ている姿は、そこまで冷たく近寄りがたくなくなっていた。晋太郎は紀美子の顔に髪の毛が垂れているのを見て、ゆっくりと手を伸ばして整理してやった。彼女の顔を触れた瞬間、晋太郎は一瞬止まった。指先から湿った感触が伝わってきた。「母さん……行かないで、私はあなたの言うことを聞くから、もう愛人はやめるから、行かないで……」紀美子の寝言を聞くと、晋太郎はまるで心臓をきつく握られるような気持ちになった。彼女は母親に言われたから自分から離れようとしていたのか?晋太郎の眼差しは暗くなり、彼女が泣いているのを見るのは、母親が亡くなった日以来だった。他の時、彼女の顔からは悲しい気持ちを一切見れなかった。よくも隠していたな!いつでも強がっている姿をして!晋太郎はイラついてネクタイを引っ張るが、ティッシュで彼女の涙を拭く手の動きは優しいものだった。この時の紀美子は、完全に目が覚めた。彼女は目覚めてすぐに晋太郎の関節のはっきりしている指が見えた。「何をしてるの?」紀美子は驚いて警戒しているように男を問い詰めた。晋太郎は答えず、拭き終わってから手を引いた。「お前はよだれを流していて、気持ち悪かったんだ」紀美子は恥ずかしくて慌てて視線を外に向かせた。外の大雪を見て、紀美子はゆっくりと目を大きくした。「雪が降ったの?」「ああ、杉本肇の故郷はこの近くだ。彼からここは雪が降っていると聞いた」晋太郎は平気で嘘をついた。紀美子は特に気にせず、ドアを開けて車を降りた。柔らかい雪を踏みながら、紀美子の機嫌も少しよくなった。彼女はまさか晋太郎が自分をこんなところに、雪を見に連れてきてくれると思わなかった。紀美子は雪道を暫く歩いて、眼底に軽い笑みが浮かん
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第87話 これ以上何を説明するの

 森川晋太郎の話を聞くと、入江紀美子の心は少しずつ冷めていった。彼女は目を閉じ、口を尖らせた。説明をすれば、彼は信じてくれるのか?「何か言え!!」晋太郎はいきなり怒鳴り出した。紀美子はぼんやりと彼を見つめ、「あんたは私の話を信じてくれるの?信じてくれないなら、これからの説明はすべて無意味よ!」「そんなのは聞きたくない!俺はお前の説明が聞きたいんだ!」晋太郎の目は段々赤くなり、真っ黒な瞳の中の怒りの炎が紀美子を燃やし尽くすほどだった。「あんたはこんな態度なのに、私にこれ以上どう説明しろというの?」紀美子は首をひねて、車の外を眺めた。彼女は説明したくなかった!彼の秘書になってから3年も経ち、機密を盗む気があったらとっくにやっていた!今日まで待つ必要なんかなかった。晋太郎は手を伸ばし、力づくで彼女の体をねじり、強引に彼女を自分に向かせた。彼は歯を食いしばり、渾身の圧迫感が人の息を止めるほどだった。「最後に聞く。説明をしろ!チャンスを与えてやる!俺の限界を試すな!!」晋太郎は言葉を一文字ずつ口から押し出し、紀美子の腕を握りつぶすほど手で掴んだ。限界を試すなですって?紀美子はあざ笑い、下唇を噛みしめながら痛みを堪えて手を引き戻した。彼女は晋太郎の視線を見つめ、挑発的な口調で、「何が聞きたい?私が会社の機密情報を盗んだこと?それとも私が全然盗んでいないという言い訳?あんた、私を少しでも信用していたの?今日事務所に入ったのは私だけじゃない!狛村静恵も入っていた!彼女が事務所にいた時間は私よりずっと長かったのに、何故私が盗んだと決めつけるの?!」「じゃあ、何故急に俺に訪ねてきた?!」晋太郎は拳を握り緊めながら、冷めきった目線で紀美子を見つめ、口調は相変わらず乱暴なものだった。紀美子は心底から無力感が湧き、そう聞かれたら、流石に説明のしようがなかった。彼女はまだ揃っていなかった証拠を彼に見せることはできなかった。そして彼が静恵の肩を持つかどうかも断定できなかった。「言ったでしょ、私はただ自分のものを取りに戻っただけ」紀美子は自信なく説明した。「嘘つけ!!」晋太郎は拳を思い切り座席の背もたれにぶつけ、激怒した声で叫んだ。「入江!本当のことを言うのは、貴様にとってそんなに難しい
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第88話 私怖いよ

 入江紀美子はやっと山腹から降りてきた。ますます重くなってきた頭と胃の中の気持ち悪さを堪えながら、彼女は痺れそうな足を引きずり、明かりをめがけて進んだ。しかし少し歩くと、目がブラックアウトして体が雪の中で倒れた。ジャルダン・デ・ヴァグ。狛村静恵は少し取り乱れた表情でリビングに座っていた。八瀬大樹の話によれば、機密資料は売り出せなかったようだ!目下、彼女は大樹に言われた通りに金を工面して大樹に送らなければならなかった。期限は三日後、それまでに1000万を渡さなければならなかった。どうやってそれを森川晋太郎に打ち明けるかを考えているうち、別荘の入り口から車の音が聞こえてきた。静恵は慌てて立ち上がったが、晋太郎の不機嫌な顔を見ると、すぐに金の件を諦めた。彼女は慌てて迎えてきて、心配そうに晋太郎の腕を掴んで聞いた。「晋さん、どうかしたの?顔色が随分悪いけど」「離せ」晋太郎にきついことを言われた静恵は慌てて手を引いた。彼女は恐る恐ると彼を見て、可哀想に言った。「晋さん、お願い、そんな怖い顔をしないで」「これから俺の許可がなければ、会社に来るな」晋太郎は静恵をそれ以上構わずに階段を登って2階に上がった。静恵の心臓はコクンっと震え、もしかして晋太郎に何かを悟られたのか?彼女は緊張して唇を噛みしめ、一緒に帰ってこなかった紀美子のことを考えた。少し考えたら彼女は分かった。晋太郎があんなに怒っていたのはきっと紀美子と喧嘩したからだった。紀美子がしたことが晋太郎を警戒させたので、彼は自分に会社に行くなと命令したのであった。そう考えながら、静恵は笑みを浮かべた。どうやら神様まで自分の味方になったようだ。紀美子が戻ってこなくても構わない、欲しいものは既に手に入った。晋太郎と紀美子が出かけていた間に、静恵は晋太郎の部屋で紀美子の髪の毛を数本集めた。明日、彼女は理由を作って渡辺家に行って、こっそりと紀美子の髪の毛をヘアブラシに置くと決めた。部屋の中。晋太郎は紀美子の携帯電話をきつく握りしめながらソファに座り込んだ。わざと携帯電話を車に残すなんて、彼女はなかなかあざといことをしてくれた。暫く座ると、晋太郎はいきなり立ち上がり、窓際まで歩いた。外に降り始めた大雪を眺めて、晋太郎の顔
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第89話 彼女に報復するのはとても難しいよ

 入江紀美子は疲弊した体を動かし、背中を森川晋太郎に向けた。彼女は今死ぬほど辛くて、たとえ一目だけでも晋太郎の顔を見たくなかった。しかし隣で書類を読んだいた男は紀美子の挙動を悟り、顔を上げた。彼は慌ててベッドに近づき、唇を動かそうとしたが、どうやって口を開くか迷った。暫くしたら、彼は振り向いて寝室を出て、松沢初江を2階に呼んできた。初江は食べ物を持ってきて、軽く声をかけた。「入江さん?」紀美子はゆっくりと目を開き、「うん」と淡々に応えた。初江「よかった、やっと目が覚めたわね。早く起きてスープを飲んで。ここ数日、ずっと栄養液を点滴していたから、胃の中はきっとお辛いでしょう」紀美子は一瞬戸惑い、初江に「私はどれくらい眠っていたの?」と聞いた。初江「もう3日目ですよ。この3日間、ご主人様は殆ど休まれておらず、1時間置きに熱いタオルであなたの体を拭いておられましたよ」「彼の話をしないで」紀美子は初江の話を打ち切り、虚ろな目で言った。「彼の話を聞きたくない、彼に会いたくもない」初江は肇から今回の事情を多少聞いていた。彼女は紀美子が戻ってきた目的を良く分かっていた。しかし初江はその秘密を守ると紀美子に約束していた。紀美子の侘しさで無表情になった顔を見て、初江は心配そうにため息をついた。「分かったわ、もうその話はしない。取り敢えず起きてスープを飲んだらどうです?」紀美子は眉を寄せ、「初江さん、誰が診てくれたの?」初江「お医者さんよ、入江さんの体は静養が必要だと言っていました」それを聞いた紀美子は少し安心した。子供のことに触れなかったのは、彼達はまだそれを知らないということだった。それに腹は特に何も感じられなかったから、多分子供は無事だった。紀美子は初江に支えられて、体を起こした。時間をかけてスープを飲み干し、紀美子はまた横になった。初江「入江さん、お願いだから、ここに残ってもらえませんか?その体、今ちゃんと回復させないと、将来は病気を引き起こしかねないですから」紀美子は低い声で答えた。「分かったわ」子供の為にも、彼女は体を養わなければならない。ただ、彼女のパソコンはまだ楡林団地の家に置いてきたが、デザイン稿の締め切りが近くなってきていた。紀美子は少し考えてから、「初江さん
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第90話 情報があった

 渡辺翔太の名前が画面に出た。入江紀美子は少し疲れていたが電話に出た。「何か御用?渡辺家の若様?」「紀美子、今どこにいる?」翔太の声は少し疲弊しているに聞こえた。紀美子「まずは要件を」翔太は暫く黙ってから、「狛村静恵は俺の妹じゃないと思う」「それは私とどんな関係があるの?」紀美子は落ち着いて聞き返した。「今はジャルダン・デ・ヴァグにいる、そうだろう?」「うん」翔太「紀美子、俺と一緒にDNA検査を受けないか?」紀美子「若様、あんた達は静恵とDNA検査をやってないの?やったのなら、彼女だと確定できるし。何故私に聞くの?私を笑われ者にする気?」翔太の声は無力感がにじんでいた。「私はこのことを信じていない、君が行きたくないならそれでいいが、私は調べ続ける」紀美子は戸惑い、何故翔太がそこまで頑なに拘っているかが分からなかった。血縁者の調査だから、渡辺家は緻密に行わないわけがなかった。既に確定しているのなら、これ以上否定する必要はあるのだろうか?紀美子はお茶を濁した。「翔太さんがやりたいことは、私には止められないし、私に相談する必要もないわ。私のことを覚えているだけで感謝してるわよ。他に用件がなければ、切るね?」翔太「……分かった」携帯を置き、疲れた紀美子は目を瞑った。彼女には、静恵がこれからどれだけいい気になるかは想像できた。彼女は今、手に入れたデータが役に立つことを祈るしかなかった。……夕方。杉浦佳世子はジャルダン・デ・ヴァグに着いて、松沢初江は彼女を2階に案内した。部屋に入り、佳代子はいきなり飛び掛かってきた。「紀美子、その顔色、余計老けて見えてるじゃない!」紀美子は下意識に顔を触ってみた。「私はまだ鏡を見てないの」佳代子は遠慮せずにベッドの縁に座り、部屋を見渡した。「へえ、これがボスの部屋なんだ」紀美子は目線を下ろして、「うん」「よくこんな部屋に住ませられて鬱にならなかったね!」佳代子は舌鼓をしながら、「壁が灰色以外、他全部黒色じゃん」紀美子は苦笑いを見せながら、枕の下からリーダーを出して、佳代子に渡した。「データの解析はどれくらいでできる?」佳代子はリーダーをポケットに入れ、「夜、私の友達が言っていた。大体3時間でできるそうよ」紀美子は頷き、「
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