共有

第88話 私怖いよ

 入江紀美子はやっと山腹から降りてきた。

ますます重くなってきた頭と胃の中の気持ち悪さを堪えながら、彼女は痺れそうな足を引きずり、明かりをめがけて進んだ。

しかし少し歩くと、目がブラックアウトして体が雪の中で倒れた。

ジャルダン・デ・ヴァグ。

狛村静恵は少し取り乱れた表情でリビングに座っていた。八瀬大樹の話によれば、機密資料は売り出せなかったようだ!

目下、彼女は大樹に言われた通りに金を工面して大樹に送らなければならなかった。

期限は三日後、それまでに1000万を渡さなければならなかった。

どうやってそれを森川晋太郎に打ち明けるかを考えているうち、別荘の入り口から車の音が聞こえてきた。

静恵は慌てて立ち上がったが、晋太郎の不機嫌な顔を見ると、すぐに金の件を諦めた。

彼女は慌てて迎えてきて、心配そうに晋太郎の腕を掴んで聞いた。

「晋さん、どうかしたの?顔色が随分悪いけど」

「離せ」

晋太郎にきついことを言われた静恵は慌てて手を引いた。

彼女は恐る恐ると彼を見て、可哀想に言った。「晋さん、お願い、そんな怖い顔をしないで」

「これから俺の許可がなければ、会社に来るな」

晋太郎は静恵をそれ以上構わずに階段を登って2階に上がった。

静恵の心臓はコクンっと震え、もしかして晋太郎に何かを悟られたのか?

彼女は緊張して唇を噛みしめ、一緒に帰ってこなかった紀美子のことを考えた。

少し考えたら彼女は分かった。

晋太郎があんなに怒っていたのはきっと紀美子と喧嘩したからだった。

紀美子がしたことが晋太郎を警戒させたので、彼は自分に会社に行くなと命令したのであった。

そう考えながら、静恵は笑みを浮かべた。

どうやら神様まで自分の味方になったようだ。

紀美子が戻ってこなくても構わない、欲しいものは既に手に入った。

晋太郎と紀美子が出かけていた間に、静恵は晋太郎の部屋で紀美子の髪の毛を数本集めた。

明日、彼女は理由を作って渡辺家に行って、こっそりと紀美子の髪の毛をヘアブラシに置くと決めた。

部屋の中。

晋太郎は紀美子の携帯電話をきつく握りしめながらソファに座り込んだ。

わざと携帯電話を車に残すなんて、彼女はなかなかあざといことをしてくれた。

暫く座ると、晋太郎はいきなり立ち上がり、窓際まで歩いた。

外に降り始めた大雪を眺めて、晋太郎の顔
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status