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第89話 彼女に報復するのはとても難しいよ

 入江紀美子は疲弊した体を動かし、背中を森川晋太郎に向けた。

彼女は今死ぬほど辛くて、たとえ一目だけでも晋太郎の顔を見たくなかった。

しかし隣で書類を読んでいた男は紀美子のが目を覚ましたのを悟り、顔を上げた。

彼は慌ててベッドに近づき、唇を動かそうとしたが、どうやって口を開くか迷った。

暫くしたら、彼は振り向いて寝室を出て、松沢初江を2階に呼んできた。

初江は食べ物を持ってきて、軽く声をかけた。「入江さん?」

紀美子はゆっくりと目を開き、「うん」と淡々に応えた。

初江「よかった、やっと目が覚めたわね。早く起きてスープを飲んで。ここ数日、ずっと栄養液を点滴していたから、胃の中はきっとお辛いでしょう」

紀美子は一瞬戸惑い、初江に「私はどれくらい眠っていたの?」と聞いた。

初江「もう3日目ですよ。この3日間、ご主人様は殆ど休まれておらず、1時間置きに熱いタオルであなたの体を拭いておられましたよ」

「彼の話をしないで」紀美子は初江の話を打ち切り、虚ろな目で言った。「彼の話を聞きたくない、彼に会いたくもない」

初江は肇から今回の事情を多少聞いていた。

彼女は紀美子が戻ってきた目的を良く分かっていた。

しかし初江はその秘密を守ると紀美子に約束していた。

紀美子の侘しさで無表情になった顔を見て、初江は心配そうにため息をついた。

「分かったわ、もうその話はしない。取り敢えず起きてスープを飲んだらどうです?」

紀美子は眉を寄せ、「初江さん、誰が診てくれたの?」

初江「お医者さんよ、入江さんの体は静養が必要だと言っていました」

それを聞いた紀美子は少し安心した。

子供のことに触れなかったのは、彼達はまだそれを知らないということだった。

それに腹は特に何も感じられなかったから、多分子供は無事だった。

紀美子は初江に支えられて、体を起こした。

時間をかけてスープを飲み干し、紀美子はまた横になった。

初江「入江さん、お願いだから、ここに残ってもらえませんか?

その体、今ちゃんと回復させないと、将来は病気を引き起こしかねないですから」

紀美子は低い声で答えた。「分かったわ」

子供の為にも、彼女は体を養わなければならない。

ただ、彼女のパソコンはまだ楡林団地の家に置いてきたが、デザイン稿の締め切りが近くなってきていた。

紀美子は少し考えてから
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