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第84話 与えられるのは身分と金だけだ

 入江紀美子は笑みを浮かべ、「それはどうも。もしかしてまた私と狛村静恵が喧嘩になるのが怖いから?」

森川晋太郎は眉を顰め、視線を紀美子の潤んだ唇に落とした。「入江、あまりいい気になると、その口を塞ぐぞ」

紀美子「……」

相手が頭の中ではセックスしか考えていない男だと思い出して、紀美子は口を閉じることにした。

晋太郎が事務所を出た後、紀美子は元の自分の席まで歩いた。

彼女は自分が使っていた事務用品を手で触っていると、脳裏にこの三年間真面目に仕事をしていた光景が浮かんだ。

静恵が現れるまでは、彼女は自分が晋太郎とは長い付き合いになると甘く考えていた。

だが残念なことに、その幼稚な考えは現実に撃ち砕かれた。

紀美子は軽く息を吸い、気持ちを整理してからドアを開き秘書室に入った。

しかし彼女の姿が消えてすぐ、静恵が廊下に現れた。

彼女は袋を持って晋太郎の事務室の前でドアをノックした。

視線はドアに落としているが、横目で廊下の防犯カメラを眺めた。

返事がないので、彼女はドアを開けて中に入った。

彼女は晋太郎のスケジュールを良く知っているので、わざとこの日を選んで会社に来た。

晋太郎の席まできて、静恵はゴージャスなお菓子を晋太郎の机の上に置いた。

そして彼女の目線が横に置いているキャビネットに落ちて、緊張しながら近づいた。

秘書室。

紀美子が職場に現れ、若い秘書たちが皆はしゃいで挨拶しに囲んできた。

中にはボスが厳しすぎると文句を言いつけてくる人までいた。

紀美子は笑顔で皆に返事している時、秘書長の佐藤は少し離れた所で白い目を向けていた。

佐藤「あのビッチの偉そうな顔見た?まるで会社が彼女がいないと回らなくなるみたいな!」

秘書の白原は驚いた。「彼女は会社に戻ってきたの?!」

佐藤「黙って!彼女が戻って来たら私は昇進できなくなるじゃない!」

白原は不満げな表情で「実は私たちは彼女に嫉妬してるじゃない。能力がある上に、社長の愛人でもある、とね」

佐藤は白原を睨み「あんた、何もかも分かってるような言い方はやめてよ。あんただって彼女のことを嫉妬してたじゃない」

白原はあざ笑った。紀美子がいないこの間、彼女はよく分かってきた。

事実、彼女の能力は彼女達全員を凌駕していた。

紀美子が秘書室を離れた最初の数日、皆に押しかかってくる仕事で大
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