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第61話 楽しそうじゃないか

 彼女のその一言で、シンプルな食事がワケありのデートとなった。

入江紀美子は彼女を見つめ、口を開こうとしたら隣の渡辺翔太が喋り出した。

「晋さん、お久しぶり」

彼の落ち着いた声は春の風の如く、紀美子の不安を振り払い、少し落ち着かせた。

そうだ、彼女はもう森川晋太郎との付き合いが終わったので、彼に誤解されることを心配する必要はなかった。

晋太郎の眉間は寒気を帯びていた。「楽しそうじゃないか」

翔太は笑ってごまかした。「まあね」

狛村静恵は晋太郎に「晋さん、こちらのお二人、なかなかお似合いだと思わない?」

晋太郎の底なしの瞳にはいかなる情緒も見えず、ただ「うん」とだけ唇を動かした。

翔太は静恵を睨み、視線を戻して紀美子に「行こう、送ってあげる」と言った。

紀美子は唇を動かし、「大丈夫」の一言がまだ言い出せないうち、翔太は「あの辺は夜だと物騒だから」と続けて言った。

腹の中の子供を考えて、紀美子は頷いた。

晋太郎とすれ違った瞬間、紀美子は彼の目の中に隠された挑発の目線に気づいた。

帰り道の途中。

「敢えて代わりに解釈しなかったけど、怒ってないよな?」翔太は軽く笑いながら聞いた。

紀美子は落ち着いた声で、「もう手放したのに、怒ったりなんかしないわ」

「君はますますうちのお母さんに似てきた気がする」翔太は少し口元の笑みを収めた。

紀美子は彼の言葉の意味がよく分からなかった。なにせ彼の母親はどんな人なのかも分からないのだ。

「じゃあ、あんたは私のことを妹と見ている、と理解していい?ちょっと恥ずかしいけど」紀美子は答えた。

翔太は一瞬ぼんやりして、「確かにそう理解していいかも」と笑って言った。

紀美子「……」

……

家に戻り、紀美子はシャワーを浴びてから机の前に座りパソコンを立ち上げデザイン稿を描き始めた。

彼女はデザイン稿を仕上げ、細かくチェックしてからベッドで横になった。

寝付いたばかりで、外から大きなノックの音がした。

紀美子は激しく鼓動する心臓を押えて、警戒しながらドアの方を眺めた。

こんな夜中に、一体誰なんだろう?

もしかして年末だから悪い人が?!

紀美子は恐る恐ると電気をつけ、音を立てずにドアに近づいた。

ドアの覗き穴を通して覗くと、悪者は見えないが、顔が赤く染まった晋太郎が目に映った。

紀美子は眉を寄せ、ドア
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