会社を辞めてから始まる社長との恋 のすべてのチャプター: チャプター 181 - チャプター 190

　塚原悟は一瞬動きが止まり、入江紀美子を見て聞いた。「どういう意味？」紀美子は勇気を出して、「渡辺野碩さんのお誕生日が終わったら、付き合いましょう！」悟の表情が一瞬で固まり、唇を振るわせながら聞いた。「何だって？」紀美子は緊張して一口水を飲んでから、「あなたなら私の言葉の意味を分かってくれるはず。ただ、あなたにとってやや不公平かもしれないけど……」と答えた。「公平とか不公平とかはない」悟は素早く彼女の話を打ち切り、唇が描いたカーブは段々はっきりしてきた。彼の清らかな瞳も、段々と潤んできた。「もう6年過ぎた、やっと君のその答えをもらえた」紀美子はほっとして、「あなたが気にしなければいい」微笑んで言った。「気にしたことは一回もなかった！」悟は肯定の口調で言い加えた。「君が今やらなければならないことがあるのも分かっている。私はその日が来るまで待つ。それからの君と子供達の世話は、私が引き受ける。」そう言われると、紀美子の繊細な顔が真っ赤になり、「あなたがずっとお世話をしてくれているじゃない？」と悟に聞き返した。「その世話は今の話の世話とは違うから」悟は笑って言った。……食事の後、紀美子は悟と一緒に病院に行って松沢初江の見舞いをしてから、藤河別荘に戻った。彼女は夕食の時、悟との会話を杉浦佳世子に教えた。佳世子は感動して電話の向こうで叫んだ。「本当なの？！本当に本当なの？！」紀美子は慌てて携帯のスピーカーフォンを切り少し離れた所に置き、「声が大きいよ、周りに迷惑がかかるじゃない」と注意した。「分かった、分かったよ！」佳世子は感動の気持ちを押さえきれず、「悟さんはやっと欲しかった答えをもらえたね！」と感嘆した。紀美子はちょっと申し訳ない口調で、「私はもう少し早くこの決断をしたら良かったのかな？」と聞いた。「そんなことないよ！」佳世子は、「あなただって、一度恋愛で失敗したから、今回は恋に対して慎重になって何が悪いのよ。本当にあなたを愛する男であれば、きっと時間なんかに負けないはずだよ！」紀美子は軽く笑って、「何であなたが私よりも嬉しそうなの？」と聞き返した。「それは当然でしょ！」佳世子は興奮して答えた。「あなたが悟さんと付き合えば、ボスのコントロールから逃れることができるんだよ！」紀美子の口元の

　入江紀美子は思わず問い詰めようとしたが、田中晴に横から割り込まれた。「入江さん、晋太郎は人を探しにきたんだ」晴も座って説明した。紀美子は戸惑って眉を寄せ、そこにいるのは殆ど一般社員ばかりだった。森川晋太郎が直々に訪ねてくるような人はいるだろうか？紀美子はあざ笑い、「田中社長はご冗談を。うちのような小さい会社には、森川社長が自ら訪ねてくるような人はいないわ」「入江さんがその人だと言ったら？」晴は笑いながら聞き返した。紀美子は反論した。「私はレベルが足りないわ」晋太郎の顔は少し曇り、素直に言った。「探しているのは君じゃない、Gだ。自惚れるな。」彼にあまりに直球的な回答を出されると、紀美子は却って戸惑った。露間朔也は紀美子を見て、素早く尻をずらして寄せてきた。「しまった、彼らは君を探しにきた！」紀美子は不満そうに朔也を睨みつけ、「内緒話は後にして」もし晋太郎に知られたら、彼女はまたちょっかいを出される。紀美子は間もなく塚原悟と付き合い始めるので、晋太郎とはこれ以上揉め事になりたくなかった。佳世子は賢く口を開いた。「森川社長、Gは業界トップクラスのデザイナーですよ、紀美子さんの会社にいるわけがないじゃないですか？」晋太郎は彼女を睨んで、口を開く前に晴に横入りされた。「何事も可能性があるのさ、杉浦さん」佳世子はあざ笑って聞き返した。「ではその可能性はどれくらいのものでしょうか？」「90パーセントだ」晴は答えた。佳世子「証拠は？」「ファッションサイトのレビューや発注量がその証拠じゃない？」晴は聞き返した。佳世子「それでGが紀美子さんと知り合いだと決めつけたの？」「私はそう判断している」「なら、私は紀美子さんは才能があるから、Gに匹敵するほどの作品をデザインしたとも言えるけど？」「その確率はゼロに近い、なぜなら設計理念が違うから」「へえ、それではさっきの言葉をそのまま返すわ、何事も可能性があるのさ！」二人の言い争いを聞いた皆「……」晋太郎は視線を紀美子の繊細な顔に落とし、鷹のような目を少し細めた。佳世子と晴の話は一理があり、紀美子はGと知り合いか、彼女がGであるのどちらかだった。デザイナーはそれぞれデザインに対して自分の考え方があった。しかもGのその独特なデザイン

　森川晋太郎は口をすぼめて、漆黒な瞳からいかなる感情も感じられなかった。「俺は一つだけ確認したい、君とGはどんな関係なのか？」入江紀美子「……」彼女がGとどんな関係って？？自分とどんな関係もないだろう？彼女は、晋太郎がGのことを別人だと思っていると気づいた。紀美子は男の話に沿って言った。「私にはその質問に答える義務はないみたい」晋太郎は彼女を睨み、「Gは生意気で自惚れており、そしてビジョンが狭い。たとえ彼がある分野で秀でているとしても、所詮は限界がある」「どうしても商人の角度で一人のデザイナーの将来の発展を見測るのね？」紀美子は笑いそうになった。彼女が彼に協力しなかったから、浅はかでビジョンの狭い人間だと言われた。MK社に頼らない限り強くなれないなんて、誰が決めつけたの？ここ5年間、彼女は一度も彼に助けを求めたことがなかったが、それでも夢を叶え、業界トップクラスの存在になれたのではないか？晋太郎は持っていたワイングラスをゆっくりと揺らしながら、淡々しい声で分析してみた。「彼がデザインのみで、金儲けを考えていないかもしれない。そうでなければ、沢山の人から嫉妬され、そして弾圧されることも必然なことになる。悪く言えば、背後に強力な勢力の支持が無ければ、いずれ商人たちに跡形無く食われる羽目になる長らく俺の秘書を勤めてきた君なら、商業界がどれほど厳しい世界かは分かっているよな？」晋太郎の話は真理だった。実に彼の言う通り、いったんあの人達に嫉妬されたが最後、とんでもない苦境に直面することになる。立ち上がったばかりの会社にとっては尚更のことだった。一人で強くなろうとすることは、そんなに容易いことではなかった。紀美子は冷静になり、ワインを一口飲んだ。「注意してくれたことを感謝する、警戒しておくわ」「防ぎきれない事情も、いずれ現れてくる」晋太郎は彼女に、「信じてくれ、Gからできるだけ離れろ。彼は君がコントロールできるような人間じゃなければ、君の力でどうにか守れるような人間でもない」「つまり、あなたはGは朔也のことだと思っているの？」紀美子は挑発的に笑って質問した。「俺はそう見ている」その話を終えると、晋太郎は再び紀美子の視線に合わせ、「それと、もう一つ言いたいことがある」紀美子「なに？」

　午後。杉本肇は森川晋太郎の事務室に入って報告した。「若様、花都のあの方が今夜帝都に来られますが、一度会ってみますか？」晋太郎は眉を寄せ、顔を上げて聞いた。「なぜ彼が帝都に来るんだ？」「情報によれば、帝都に凄腕の外科医がいるらしく、あの方のご子息が腫瘤を患い、今回はわざわざその医者に頼みに来るようです」「どの医者に会おうとしているかを調べろ」「はい」肇が離れようとした時、晋太郎は彼を呼び止め、「親子鑑定の件はどうなった？」「既に人を遣って鑑定に出しましたが、早ければ3日後に結果が出ます」肇は答えた。「分かった、出ていい」晋太郎は改めてパソコンの画面を見つめた。その時、テーブルの上の携帯が急に鳴り出した。昨晩彼がGに送ったメールの返信がきた。彼は書類を置き、メールボックスを開いた。G「私にはその実力がありません、他の人材に当たってください」晋太郎はあざ笑い、「私の判断が間違っていなければ、君は既に協力したい人を選んだからMKを断ったのだろう？」と返信した。パソコンの前で入江紀美子にメールの返信を手伝っていた露間朔也は、その晋太郎のメールを読んでチンプンカンプンだった。数日前、彼は紀美子からMK社からの要請メールを返信する仕事を任された。彼は昨晩、その件で死ぬほど怖気を振るっていた。晋太郎が面と向かってメールを飛ばしただけではなく、彼の携帯を冷たく見つめていた！昨晩を思い返していると、朔也は急に閃き、晋太郎の返信の意味を理解した！あの眼差しは明らかに自分のことをGだと思っていたに違いない！！朔也は口元の笑みが押さえられなくなり、遊び心ですぐに晋太郎に返信した。「森川社長、既に私の身分をお分かりになったのなら、これ以上困らせないでくださる？」メールを読んだ晋太郎はあざ笑った。もう隠すことを諦めたのか？晋太郎「どうやら君はそのパートナーをかなり慕っているな！」朔也「それはもちろんのこと！天に誓ってもいい！この人生を捧げても厭わない！どんな苦難をも乗り越える！一生追随していく！」晋太郎は危うく携帯のスクリーンを押しつぶすところだった！なにが「人生を捧げても厭わない」だ？！一生追随するなんて！彼は紀美子を追うつもりだったのか？！彼女は自分の子供の母親だ、他の奴

　「朔也、子供達を連れてリビングで遊んできて」入江紀美子は言った。露間朔也は頷こうとすると、横目に森川晋太郎の後ろに立っていた小さな姿を見た。「そっちのちびちゃんは？」朔也は聞いた。紀美子は朔也の視線を辿ってみたら、晋太郎の後ろに立っていた森川念江が見えた。紀美子は唇をきつくすぼめていた子供に声をかけた。「念江君？」念江は大人しく前に出て、「うん」と返事した。紀美子は可憐に念江を抱き上げて、「一緒に中に行こう」と言った。そう言って、彼女は晋太郎の方を見て、「うちは狭いけど、もしよかったら、あなたも入ってきて」と言った。晋太郎は冷たい目線を戻して、何も言わずに別荘に入った。晋太郎が朔也の前を通った時、その眼底の冷たく発していた敵意が朔也を思わず震わせた。朔也は自信なさそうに唾を飲み、晋太郎の後に、入江ゆみを抱き佑樹の手を繋いで入っていった。晋太郎はソファに腰を掛け、視線を回してから、「初江さんはいないのか？」と尋ねた。紀美子は念江を置いてから、「初江さんは病院にいる」と答えた。晋太郎は眉を寄せ、「病院？」と聞いた。「うん」紀美子は胸の痛みを堪えながら説明した。「子供達が拉致された日、初江さんは誰かに襲われて意識不明の重体となったわ」晋太郎は眉を寄せ、「なぜそのことを教えてくれなかった？」「教えたら何ができるの？」紀美子は彼を見て、「初江さんの意識を回復させられるの？塚原先生でさえ何も出来なかったのに、あなたに教えて何ができる？」晋太郎は視線を戻し、携帯を取り出して杉本肇にメッセージを送った。「初江さんのカルテを入手して、最速で東恒病院に移れ」携帯を閉じてから、晋太郎は立ち上がり、「子供達を預けておく、明日迎えにくる」紀美子の返事を待たずに、晋太郎はそのまま別荘を出た。ドアが閉まった後、朔也は疑問の目で紀美子を見た。「一言聞くだけで帰った？どこに行った？」紀美子は窓越しに発進した車を眺めて、「私もわからないわ」と呟いた。翌日の朝。紀美子は子供達を幼稚園に送った。そして朔也と工場を回り、特に問題がないことを確認してから会社に向かった。事務所に入ると、秘書の安藤が入ってきて、「社長」と声をかけてきた。紀美子は上着を脱ぎながら聞いた「何？」安藤は恐る恐ると報告した。「社長