峻介は椅子の肘掛けを強く掴んでいた。優子がさらわれてからというもの、彼女や娘がどんな目に遭っているかと不安で仕方がなかった。貨物が出荷される前は「清潔を保つ」というルールがあるとはいえ、彼は緊張を抑えきれなかった。司会者が最初の品物を紹介するとき、彼の心臓は激しく鼓動し始めた。それが優子でないと確認した途端、ほっと一息をついた。彼の予想通り、彩花は優子を最後に出すつもりらしい。峻介の手は肘掛けをしっかりと掴んでいた。時が一刻一刻と過ぎていった。事前に「いい品がある」と告知されていたため、客たちは序盤にはそれほど熱心にならず、最後の目玉を期待していた。途中、良平が峻介に何度か水を渡したが、峻介は一口も口にしなかった。ついに、目玉の品が出る時間が来た。彩花が自ら登場した。彼女は赤いタイトドレスを着て、高いヒールで舞台の中央に進み出た。その見事なスタイルに、男たちは皆目を奪われ、口笛を吹く者も現れた。彼女は仮面をつけ、その邪悪な表情を隠していた。「お待たせしました。皆さんも待ちくたびれたことでしょう。これから今夜の特別な目玉商品をお披露目します」彼女が手を叩いた後、部下たちが黒いベールで覆われた二つの巨大な装置を舞台に運び込んできた。峻介は心臓が締め付けられるような感じを覚えた。「見せびらかすんじゃねえ、早く品物を見せろ!」「そうだ、大半はつまらん品だった。早く極上の品を出せ!」彩花はその群衆の仮面越しに視線を巡らせると、峻介の姿を一瞬で見つけた。彼は群衆の中に腰を下ろし、仮面で顔全体を覆っていた。彼の表情はわからなかったが、足を組み、肘掛けに手を置き、まるで勝利を確信しているかのような佇まいだった。離れた位置からでも彼の強烈なオーラが感じられ、彩花は今目の前にいる男が単なる小物ではなく、何かしらの神秘的なボスのような気がしてきた。だが、ここまで来た以上、彼女に引き返す道はなかった。彩花は、船主がいなくとも、船上の全ての状況を見通しているとわかっていた。彼女が客を売ろうとしていることも、いずれ船主の耳に入るだろう。それでも彼は今のところ何も止めていなかったのだ。おそらく、黙認されているのだろう。この船にいた男も女も、多分善人などではなかった。売られるのが当然なのだった。ここでは
最終更新日 : 2024-11-25 続きを読む