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第0332話

輝明は感謝を述べ、電話を切ると同時にエレベーターの扉が開いた。

彼はすぐに外へ向かい、森下がその後を追った。「社長、僕も一緒に行かせてください」

輝明は森下を一瞥し、少し苛立ちを含んだ声で言った。「どうしてスマホを身につけていなかったんだ?」

森下は申し訳なさそうに、「すみません、社長。充電が切れてしまって……」と答えた。

輝明は何も言わずに車に乗り込むと、すぐに車は発進し、遠ざかっていった。

森下はその場に残り、深くため息をついた。

桜井さん、どうか無事でいてください……。

でも、輝明の態度を見る限り、彼はやはり綿のことを心から気にしているのかもしれない。

警察署に到着すると、輝明は盛晴がロビーの椅子に座っているのを見つけた。彼女は涙を浮かべており、輝明の姿を見て少し驚いたような表情を見せた。

輝明は彼女に近づいたが、どう声をかけるべきか一瞬戸惑った。

しばらくして、彼は低い声で「伯母様」と呼びかけた。

「綿の件でお越しになったんですね?」と彼は尋ねた。

盛晴は輝明に対して複雑な感情を抱いていたが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。彼女は頷き、「ええ」と短く答えた。

「皆さん、中にいるわ」盛晴は会議室の方向を指差した。

輝明は軽く頷き、彼女を慰めようと肩に手を置こうとしたが、結局その手を引っ込め、大股で会議室へ向かった。

盛晴は彼の後ろ姿を見つめ、複雑な思いが胸にこみ上げてきた。

彼女は輝明のことを昔から知っていた。美香と千恵子は長い付き合いがあり、輝明はその中で育ってきた。

輝明は容姿も家柄も申し分ない男だ。ただ一つ、彼が綿を愛していないという事実が問題だった。

それさえなければ、婿としては完璧な人選だったのに。

しかし、彼が綿に冷たい態度を取り続けたことで、盛晴は彼を受け入れることができなくなった。どれだけ条件が良くても、娘を再び危険な状況に置くことはできないのだ。

輝明が会議室に入ると、その場にいた全員が立ち上がった。だが、天河だけは座ったままだった。

皆が一斉に挨拶をした。「高杉さん」

「高杉社長」

輝明は軽く頷き、天河の方を見た。

天河の態度は冷たく、輝明に対してあまり良い顔はしていなかった。

「伯父様」輝明は声をかけたが、天河はそっぽを向いた。

「高杉さん、綿さんの件でお越しになったんです
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