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第0333話

輝明は会議室を出ると、嬌に電話をかけた。

すぐに電話が繋がり、彼女は泣きそうな声で答えた。「明くん……やっと電話をくれたのね。もう二度と連絡してくれないんじゃないかと思ってた……」

輝明は目を伏せ、片手で髪をかき上げた。表情はどこか複雑だった。

彼はプロポーズを断った後、嬌と連絡を取っていなかった。お互い冷静になる時間が必要だと考えていたし、秀美にも冷静になる時間が必要だと思っていた。

「嬌、一つ聞きたいことがある。正直に答えてくれ」輝明の声には、深刻さと緊張が滲んでいた。

嬌はすぐに答えた。「何でも聞いて、明くん。何でも正直に答えるから」

輝明は声を低くして尋ねた。「綿を誘拐したんじゃないだろうな?」

その言葉を聞いた瞬間、嬌は一瞬言葉を失った。

まさか輝明が自分にそんなことを尋ねるとは、全く思いもしなかった。

以前は、彼が綿に「何か企んでいるのか?」と疑いをかけることが多かったが、今やその矛先が自分に向けられていた。

「明くん……あたしはそんなことをする人間だと思われているの?あなたを手に入れられないからって、綿を傷つけるようなことをするって?」嬌は涙を流しながら、さらに悔しそうな声で答えた。「もしあたしが本気で綿をどうにかしようと思っていたら、もっと前に手を打ってるわよ。これまでこんなに我慢してきたのは、なんでだと思う?

「こんな時間に電話をくれたのは、桜井綿のことを聞くためであって、あたしのことを気にしてくれているわけじゃないんでしょう?」彼女の声には、明らかな失望が含まれていた。

彼女はますます確信していた。輝明の心は、綿が離婚を宣言したあの日から、徐々に自分から離れてしまったのだ。

彼は本当に、綿に気持ちがあるのかもしれない。

「嬌、この件は後で話す。まずは質問に答えてくれ」輝明は窓の外にいる盛晴の姿を見つめていた。

彼女の状態は非常に悪く、今にも倒れてしまいそうだった。

綿は桜井家の宝物であり、彼と結婚してから、桜井家が彼女と距離を置いていたのは、その重さを物語っていた。

もし綿に何かあれば、家族はきっと狂ってしまうだろう。

「あたしはやってない!」嬌はそう言い放ち、電話を切った。

輝明はスマホを見つめ、複雑な表情を浮かべた。

彼はすぐに森下に電話をかけ、「陸川さんが最近誰と接触していたか調べてくれ」と指示した。
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