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第0331話

綿は当初冷静だったが、誘拐犯の言葉を聞いてから急に焦り始めた。

彼女は体を揺らしてみた。

「おいおいおい、姉ちゃん、危ないから揺らすなよ。自分で落ちちまうぞ!」男は慌てて声をかけた。

綿は本当に落ちそうで、心の中で叫びたくなった。

何かを言おうとする綿を見て、男はすぐに気づいた。

「お前、高杉輝明に連絡を取りたいんだろ?」と彼は尋ねた。

綿は急いで首を横に振った。

男は意外そうに、「高杉輝明に誘拐されたことを知らせたくないってことか?」と聞いた。

綿は頷いた。

「どうしてだ?」男はさらに驚いた。

綿は説明したかったが、言葉にするのが難しかった。

「これ、絶好のチャンスじゃないか?彼が命がけで助けに来れば、また昔みたいに二人の関係が復活するかもしれないぞ。それって素晴らしいことじゃないか?」男は楽しそうに言った。

綿は内心で呆れた。ありがとう、兄さん。でも復縁なんてまったく必要ないんだよ。

「お前、なんでそんなに復縁に興味がないんだ?」男は綿の冷淡な態度に不思議そうな顔をした。

綿は目を閉じた。分かってくれるならそれでいい。

「まあ、いいか」男はそれ以上口を挟むことはなく、月を眺めながら顔を支えた。

綿「……」今夜の月はとても美しい。けれど、自分は今誘拐されているなんて、信じられない。

さらに驚くべきことに、誘拐犯が彼女の隣に座り、月を眺めているのだ。

まるで夢みたいな状況だった。

……

その頃、高杉グループ。

輝明はビデオ会議を終えたばかりだった。手元の資料を確認し、疲れた顔でそれを森下に手渡した。「交渉はうまくいった。明日、遂城に飛ぶ準備をしよう」

森下は頷き、「了解しました、社長」

輝明はポケットに手を入れてスマホを探したが、見当たらなかった。

「森下、俺のスマホはどこだ?」と輝明は聞いた。

「おそらくオフィスに置かれたままだと思います。午後はお持ちになっていなかったようです」と森下が答えた。

輝明は数秒黙った後、「そうか」とだけ答え、森下と共にオフィスに向かった。

道中、輝明は聞いた。「嬌はどうしている?」

「社長、陸川さんはこの数日間ずっと自宅にいて、外出はしていません。我々の監視も続いています」と森下が答えた。

輝明は眉をひそめた。どこにも行かず、自分に連絡もしてこないとは、静かすぎる。

「分
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