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第0300話

馬場主任は林院長の言葉を聞いた瞬間、目が赤くなり、突然両手をついて床に跪いた。

「院長!僕が間違ってました!」彼は涙を流しながら訴えた。

「院長、一時の迷いだったんです。どうか、こんな仕打ちはやめてください!業界から追放されたら、どうやって生きていけばいいんですか?」彼は必死に叫んだ。

苦労して医学を学び、やっとの思いで手に入れたキャリアが、この一件で全て終わってしまう、人生は完全に崩壊するのだ。

綿は馬場主任をじっと見つめたが、彼に対して同情の気持ちは一切湧かなかった。

馬場主任は初めから彼女たちを見下していた。だから、今の状況は自業自得だと思った。

同僚に対して公平に接することができない人間が、患者にはどんな態度を取っているのか、考えるだけでぞっとする。

綿は、馬場主任があの患者を迎えに行ったときにやけに熱心だった理由がやっと分かった。

相手が軍関係者だったからだ。媚びを売り、関係を作ろうとしていたのだ。なんて気持ち悪い。

「今さら泣きついても無駄だ。人を陥れた時、自分が間違っているとは思わなかったのか?」林院長は厳しい口調で問い詰めた。

馬場主任は声を荒げた。「陥れる?彼女の学歴が偽造だったんですよ!告発するのは当然じゃないですか?それが間違いだなんて、どうして言えるんですか?」

彼は綿を睨みつけ、さらに声を張り上げた。「桜井綿、お前が言ってみろ!陸川嬌が医学院に入ったのは、お前がその枠を譲ったからだろう!」

輝明は驚いて綿を見た。何だって?

皆、嬌の学歴が偽造だとは知っていたが、その枠が綿から譲られたものだとは誰も知らなかった。

これに綿が関わっていたなんて…。

綿は一瞬言葉を失った。この場に来るんじゃなかった。馬場主任が彼女に話を振るなんて。

「桜井先生、本当に陸川嬌にその枠を譲ったの?」桑原看護師が小さな声でつぶやいた。「外では、桜井家がその枠を買い取ったって言われていたのに…」

その言葉に、場の空気が一瞬で凍りついた。

そうだ、そうだよ、世間では桜井家は医学の名家なのに、綿だけが医学の落ちこぼれだって言われてるんだ。

綿が医学院に入学した時、その枠を買ったと噂されていた。一方で、嬌が合格した時には、試験で勝ち取ったものだと信じられていた。

実際、当時のことは綿にとっても遠い記憶だった。

綿と嬌がまだ親しかった頃
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