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第0275話

その男が顔を上げた瞬間、ちょうど彼女たちを見つけた。

「秋年だ」綿は眉を上げた。

秋年は二人に向かって手を振り、笑顔で「やあ」と声をかけた。

玲奈は秋年に軽く会釈して挨拶を返した。

秋年は玲奈をじっと見つめ、彼女を細かく観察してから、静かに目を逸らした。

「岩段社長もこんなパーティーに参加するの?」綿は首をかしげて尋ねた。

「普段は来ないけど、今日はちょっと用事があってね」秋年は活発に笑いながら答えた。

綿は特に何の用事か追及しようとは思わなかったが、彼は自ら話し始めた。「あるスターを探しに来たんだ。ちょっと話があってね」

「そうなの?」綿は頷き、微笑みながら「そのスターさんは幸運だね。岩段社長と協力できるなんて、いい話で」と返した。

玲奈も微笑みながら、「成功をお祈るわ」と淡々と言った。

秋年は眉を上げ、笑みを深めながら「そう願ってるよ」と答えた。

そう言って、秋年はまた自分の用事に戻った。

綿と玲奈は、腕を組んで秋年の背中を見つめていた。

綿は目を細めながら、「秋年が直接誘いに来るなんて、きっと普通のスターじゃないはず」と言った。

玲奈も頷き、「聞いたことがあるわ。岩段氏グループのプロジェクトは、なかなか簡単に契約できないって。秋年は、見た目とは違って目が肥えているの。普通の女優じゃ彼の目に留まらないわ!」と答えた。

「そうなの?」綿は玲奈に尋ねた。

玲奈は「ええ」と頷いた。「彼にはもう一つ厄介なところがあって、あまりにも有名な女優も嫌がるの。私もこの業界で長いけど、岩段氏グループの広告契約を取ったことは一度もないわ」

そのため、最近では玲奈は岩段氏グループの商品を見ると、つい鼻で笑ってしまうことがあるという。

さらに、秋年が輝明の友人であることもあり、玲奈は彼をあまり好ましく思っていなかった。

「大スターのあなたでも取れない契約があるんだ?」綿は驚いた様子で言った。

玲奈は両手を広げて、「そうなのよ」と答えた。

「ちぇっ、秋年って、ほんとに見る目がないわね!」綿は鼻を鳴らしてから、玲奈の腕を握りしめ、「もし彼が今、契約を持ちかけてきたらどうする?」と尋ねた。

「彼が跪いて頼んできたら、考えてあげるわ」玲奈は眉を上げ、小さな女王のよ
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