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第0173話

まさに決定的な瞬間。

車内の雰囲気は一層艶めかしくなる。

綿の指先が不意に輝明の首に引っ掻き傷を残し、その爪痕はくっきりと浮かび上がる。

彼女の衣服が引き裂かれそうになった瞬間、静かな車内に輝明のスマホの着信音が響いた。

男の動きが一瞬止まり、指先はまだ綿のブラジャーのホックにかかっている。

その音はあまりに鮮明で、聞く者を一気に現実に引き戻す。

綿は目を上げ、紅く染まった瞳が輝明の抑圧された陰鬱な眼差しと交わる。

綿は唇を軽く噛みしめ、血の味がほのかに広がる。彼のスマホ画面に映る目立つ名前――「嬌ちゃん」。

それは陸川嬌だ。

綿は眉をひそめ、意識が徐々にクリアになる。彼女は輝明をからかうように言った。「これって、不倫になるんじゃない?」

輝明は一瞬固まり、綿の目をじっと見つめ、冷笑を浮かべた。「俺たちは夫婦だ」

「じゃあ、あなたと嬌は不倫になるの?」綿は遠慮なく、輝明と嬌の関係を指摘した。

輝明は否定しなかった。ただ欲望と占有欲を抑え込み、元の席に戻った。

輝明は携帯を手に取り、電話に出ようとした。

綿はどこからその勇気が湧いてきたのか、自分でも分からなかったが、おそらく酔っているせいだろう。彼の手から携帯を奪い取り、通話ボタンを押した。

輝明も、綿がそんなことをするとは思っていなかった。

彼は意外そうに綿を見つめた。

綿は電話の向こうから聞こえてくる声に耳を澄ました。「明くん、私、体調が悪くて……一緒にいてくれない?」

綿は目を細めて輝明を見た。

こんな優しい声なら、男が抗えないのも無理はない。

綿は唇を引き結び、声を低くして皮肉を込めて言った。「ごめん、無理。彼は今、私のそばにいるので」

「あんた……」嬌の声が詰まる。

綿が何か言おうとしたその時、輝明はすでに携帯を取り戻していた。輝明は携帯を耳に当て、清涼な声で「どうした?」と尋ねる。

綿は冷笑した。そんなに急いで携帯を取り戻すのは、嬌を傷つけられるのが怖いからか?

「明くん……あんたと綿が一緒にいるの?」嬌の声にはまだ信じられないという色が滲んでいる。

輝明は短く「うん」と答えた。

「あんたと綿、こんな時間に、何を……?」と嬌は疑念を抱いた。

綿は彼女の言葉を聞き、意気揚々と「キスしてたの!あなたたちがしてたことをしてたの!」と言いたかったが、ぐっと堪え
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