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第0080話

車は別荘の前に停まった。

輝明は綿を抱きかかえて車から降りた。

ドアが開くと、綿はうっすらと目を開けて、眠そうに「家に着いたの?」と聞いた。

彼女の顔を覗き込み、眉間に苦痛の表情が浮かんでいるのを見た。体の傷が苦しめているのだろう。

「うん」と静かに答え、綿を抱えて階段を上がった。

綿は少しめまいがして、うとうとしながら再び眠りに落ちた。

こんなにもぐっすり眠るのを見て、呆れたようにため息をついた。

このおバカさんがこんなにも安心してまた眠りに落ちるなんて。今日は彼が病院に連れて行ったが、もし司礼だったらどうなっていたのか?

もし司礼が彼女を家に連れ帰ったらどうなるのか、輝明は想像もしたくなかった。

寝室のドアを開け、ライトをつけた瞬間、部屋の空っぽさが心を震わせた。

綿が去ってから、この部屋に入ったことはなかった。久しぶりに入ると、すべてがとても見慣れない感じがした。

輝明は布団をめくり、綿をゆっくりとベッドに横たえた。

綿はすぐに寝返りを打ち、布団を抱きしめ、「痛い…」と呟いた。

輝明はベッドの端に立ち、彼女の不器用な寝姿を見下ろし、少し笑みを浮かべた。

腰をかがめて彼女の服を直し、髪を耳の後ろにそっとかきあげた。

綿は目を閉じたまま、長いまつげが際立ち、本当に美しく、見るたびに魅了されてしまう顔だ。

高校時代、彼女はラブレターを受け取りきれないほどだった。

大学時代は、毎日誰かから告白されていた。

みんなが言っていた、輝明は幸運だと。

でも綿はただ、輝明と結婚できたことが幸運だと思っていた。

でも今はどうだろう?

まだ彼との結婚が得だったと思っているのか?

今は彼に対してただの憎しみしかないだろう。

そう考えると、輝明は喉が詰まるような気持ちになった。

その時、綿のスマホが突然鳴った。

彼女のバッグからスマホを取り出し、画面に表示された名前を見た――司礼だった。

輝明は眉をひそめ、もう深夜に近いこの時間に司礼が電話をかけてくるのは失礼ではないだろうか?

ベッドに横たわる綿を見て、しばらく電話が切れないのを見て、電話を取り耳に当てた。

「綿ちゃん、もう帰ったか?傷は深いか?」男の声は温かく、明らかな心配が込められていた。

輝明は唇を引き締め、低い声で答えた。「彼女はもう寝た」

電話の向こうは沈黙した。

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