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第0085話

それでも、今まで誰もこの鍼灸法が綿によって生み出されたことを知らなかった。

「よし、四十分後に針を抜くね」綿は薄い毛布をかけてから、「最近は撮影があるの?だからカッピングはやめておくね」と尋ねた。

「うん」玲奈は頷いた。

綿が針を刺すたびに、彼女は眠くなった。

綿がわざとそうしていることを知っていた。玲奈が普段ちゃんと休めていないことを知っていて、深く眠らせて元気を取り戻させようとしていたのだ。

外野にとって、綿は役立たずに見えるかもしれないが、玲奈にとって、彼女は自分を癒してくれる神だった。

綿は隣の揺り椅子に横たわり、スマホを手に取ると、今日のニュースが異様に静かなことに気づいた。

昨晩のお祖母様の誕生日パーティーの件で、一つも悪いニュースが出ていなかったのだ。

陸川家がお祖母様に偽物の雪蓮草を贈ったことについて、誰も話題にしていなかった。

綿は目を細め、何気なく「雪蓮草」と検索してみたが、何も出てこなかった。完全に空白だった。

誰かがこのキーワードを故意に封鎖したようだ。

恥をかきたくない陸川家か、高杉家か、または嬌が非難されるのを恐れる輝明か。

玲奈を心配させないように、心の中で深いため息をついた。

嬌は本当に幸せだ。どんなに大きなトラブルを起こしても、輝明が尻拭いをしてくれるのだ。

綿はスマホを置き、あのふたりのことを考えるのをやめた。

玲奈の帽子を手に取り、無造作にいじりながら言った。「この帽子、マスクと一体化してて面白いね」

「試してみて。気に入ったら買ってあげるよ」玲奈は目を閉じたまま、静かに言った。

綿は帽子をかぶってみた。それはマスクと一体化した日焼け防止帽子で、目だけが見える。そしてサングラスをかけると、完全に顔を隠すことができるのだ。

「私が誰だか分からる?」綿は尋ねた。

「外に出て歩いてみれば分かるよ」玲奈は笑った。

綿は、針を取るまでの暇つぶしに、スターがこっそりと外出する生活を体験してみたくなった。

「ちょっと外に行ってくるね」そう言って、綿は本当に出て行った。

玲奈は困ったように「綿ちゃん……」と呟いたが、このいたずらっ子は本当に行ってしまった。

綿が輝明と結婚したとき、座右の銘はこうだった。「輝明はおとなしくて従順な女が好き。だからもう遊びに誘わないで。私は愛のために心を閉ざすわ!」

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