第0011話

綿は指輪を取りに別荘へ向かった。パスワードを入力してドアを開けようとすると、機械的なエラーメッセージが響いた。

「パスワードが間違っています」

綿は一瞬驚いたが、ここが輝明の別荘であることを確認した。しかし、再度パスワードを入力しても、同じエラーメッセージが表示された。

三度目のパスワード入力でもエラーが出て、指紋認証も通らなかった。電子ロックが警報を発し、綿は確信した。パスワードが変更されているのだ。

輝明の迅速な行動に彼女は驚かされた。彼がどれほど自分をここに来させたくないのかが明らかだった。わずか二日間でパスワードを変えるなんて。

綿は携帯電話を取り出し、輝明に電話をかけようとした。その時、ドアが突然開かれ、内部から聞き慣れた声が聞こえた。

「綿ちゃん？」

綿が振り向くと、そこには男性用の白いシャツを着た陸川嬌が立っていた。彼女の長い脚が目立ち、シャツの下は何も履いていないようだった。

嬌の頬は赤く染まり、首には鮮やかな紅が差していた。髪は乱れ、どこか艶やかな雰囲気を漂わせていた。

「誰が来たの？」客間から男性の冷たい声が響いた。

綿が顔を上げると、浴衣を着てタオルで髪を拭いている輝明が目に入った。嬌はすぐに彼の元へ歩み寄り、彼の細い腰に腕を回して笑顔で言った。

「綿ちゃんが来たわよ」

綿は二人の親密な様子を見つめ、心が激しく波打ち、両手を強く握りしめた。彼らがこの家で何をしていたのか想像するだけで胸が痛んだ。

彼らが結婚して以来、輝明はほとんど家に帰らなかった。彼はいつも忙しいと言い訳していたが、本当の理由は家にいる自分が彼にとって無価値だったからだ。

輝明は冷たい目で綿を見つめ、「指輪を取りに来たのか？」

綿は静かに頷いた。

「上にある。自分で取りに行け」そう言うと、彼は部屋に戻っていった。

綿は唇を噛みしめた。

嬌は輝明が去ると、まるで家の主人のように振る舞い、「綿ちゃん、私が案内するわ」と言った。

綿は冷たい目で彼女を見つめ、「自分で見つけるから、外人は必要ない」

「外人？」嬌は冷笑し、もう綿に取り繕うこともせずに言い放った。「この家の女主人はずっと私よ。あなたはただの代用品に過ぎない」

綿は彼女を一瞥し、「代用品」と言われても反論する気力もなかった。

彼女は無言で階段を上がり、書斎の第三引き出しを開けた。そこにあるのは、贈った贈り物が乱雑に積み上げられているだけで、どれも開封されていなかった。

彼女は自分が輝明にとって何の価値もなかったことを再確認し、胸が痛んだ。

嬌の声が背後から聞こえた。「まだ見つからないの？本当に指輪を探しているのかしら？離婚を後悔して、わざわざここに来て注目を引こうとしているんじゃない？」

綿は無視しようとしたが、最後の引き出しで黒い箱を見つけた。

指輪だ。

彼女は引き出しを閉めて立ち上がった。嬌の目には敵意が満ちていた。

「お邪魔しました」綿は歩き出そうとしたが、嬌が彼女の腕を掴んだ。

「綿ちゃん、早く輝明と離婚してちょうだい」彼女は顎を突き出し、威圧的な態度で言った。

綿は冷たく微笑んで彼女の腕を振り払い、「早くしようが遅くしようが、未来の高杉家の女主人はあなたでしょう。何を急いでいるの？」

嬌は怒りに顔を紅潮させ、「あなたは私の席を三年間も占拠して、恥ずかしくないの？」

綿は冷淡に答えた。「それはあなたが無能だからでしょう。高杉家があなたを認めないのは、私のせいではない」

「綿、本当に厚かましい！」嬌は歯ぎしりしながら言った。

綿はため息をつき、「あなたの前では、確かに厚かましくしても意味がない」

嬌の顔は怒りで真っ赤になった。

綿は階段の前で振り返り、冷たい目で彼女を見つめた。「あなたが私を責めるのなら、私も真実を明らかにするわ。あの時、医大に裏口から入ったのは私じゃなくて、あなたよ」

嬌は恐怖に震え、背筋が寒くなった。「綿、あなた何を言っているの？」

「真実を明らかにするつもりだ」綿は冷笑した。

嬌は綿の腕を強く掴み、必死に言い返した。「あなたが私を壊しても、高杉はあなたを愛さないわ。彼はただ、もっとあなたを憎むだけ」

その時、廊下に足音が響き、輝明が姿を現した。嬌は瞬時に表情を変え、涙目で綿を見つめ、「綿ちゃん、ごめんね。私はただ、明くんを愛しすぎてしまったの」

彼女は綿の腕を掴み、自分の顔に一発叩き込んだ。

「パシッ！」

清脆な音が廊下に響き渡った。輝明がちょうどその場に現れ、綿が嬌を叩いた瞬間を目撃した。

「桜井綿！」彼は怒りに満ちた声で叫んだ。綿は驚きと混乱の中で立ち尽くしていたが、嬌が痛みのあまり叫びながら階段から転げ落ちた。

「明くん、助けて！」嬌の声が響いた。

綿は反射的に彼女の手を掴もうとしたが、自分もまたバランスを崩し、階段から転げ落ちた。

「綿ちゃん！」輝明の声が響いた。

彼は急いで駆け寄り、二人の手を取ろうとした。その瞬間、彼の心は激しく揺れ動いた。二人の女性が同時に彼に助けを求める中、彼の手は一人の腕をしっかりと掴んだ。