第0016話

病室で

綿は少し驚いた。彼が本当に監視カメラを見たなんて予想外だった。

しかし、今の彼女にはもうそれは重要ではなかった。

綿はバンドエイドを貼り、医薬箱を閉じた。「終わったよ」

輝明は眉をひそめ、彼女の無関心な態度に不満を覚えた。

「綿、監視カメラを見たって言ったんだ」彼はもう一度強調した。

綿は目を上げて彼を見て、笑った。「聞こえたわ」

輝明は眉をひそめた。聞こえただけ？

彼女は謝罪や他の何かを期待していないのか？

輝明の困惑を見抜いた綿は立ち上がり、医薬箱を元の場所に戻しながら淡々と言った。「昔は君を愛していて、君の意見を気にしていたわ。でも今は……」

彼女は扇子を広げて優雅に言った。「もうどうでもいいわ」

輝明は唇を舐め、黒い瞳に微かな光を宿し、微笑んだ。「もう愛していないのか？」

「高杉さん、本当に賢いわね」綿は微笑んで、キャビネットに寄りかかりながら答えた。その笑顔は美しく、風情に満ちていた。

彼を愛することは、彼女の半生を奪った。彼が彼女を階段から落としたとき、もうすべてが終わったのだ。

もし彼を愛し続けて、彼に執着し続けるなら、それこそ彼女が愚か者だ。

輝明は暗い目で彼女を見つめ、一歩一歩近づいていった。

綿は動じず、彼が近づくのを見守っていた。

彼は彼女の前に立ち、両腕をキャビネットに置いて、微笑んだ。「君は本当に心変わりが早いな」

綿は淡く笑い、杏のような目が輝いていた。「高杉さん、私があなたを七年も愛してやっと心変わりしたんだから、早いとは言えないでしょう？」

輝明は目を細め、彼女の紅い唇を見て喉を動かし、尋ねた。「愛したことを後悔しているか？」

綿は彼の眉間を見つめ、真剣に答えた。「ええ、後悔しているわ」

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彼を愛したことを後悔している。彼とはもう一生関わりたくない。

輝明の瞳孔が一瞬縮まり、心臓が痛んだ。

「明日の朝、離婚手続きをしよう」綿は冷静に言った。

輝明の目は暗くなり、心の中で焦りと苛立ちが渦巻いた。

綿が立ち去ろうとすると、彼は反射的に彼女の手首を掴んだ。

綿は振り返って彼を見つめ、冷たく言った。「輝明さん、まだ何か？」

輝明の心の中で抑えられていた怒りが「高杉さん」という呼び方で爆発した。

彼は長い腕で桜井綿を引き寄せ、彼女を壁に押し付け、強引にキスをした。

——愛したことを後悔しているか？

——ええ、後悔しているわ。

この対話が彼の頭の中で繰り返され、まるで心に刺さった棘のようだった。

綿の体は震え、彼を押しのけて問い詰めた。「高杉、あなたと田中隆司に何の違いがあるの？」

彼は彼女を見つめ、その目には深い感情が宿り、赤い目尻をしていた。「大いに違う。田中隆司は強姦だ。私たちは合法的な夫婦だから、君を抱くのは当然だ！」

そう言って、彼は再び彼女にキスをした。

綿は唇を閉じて必死に逃れようとした。彼は彼女の腰を抱き、彼女を引き寄せて唇を噛み、自然に口内に侵入した。

外から足音が聞こえ、綿は眉をひそめ、ドアを叩いた。

輝明はすぐにドアを閉め、ロックをかけた。

彼は彼女の両手を高く掲げ、一方の手で彼女の手首をドアに押し付けた。

綿は羞恥心に苛まれた。結婚している間は触れようともしなかったのに、離婚を言い出すと強引に迫ってくるとは！

なぜ彼は彼女にこんなことをするのか？

輝明にとって、彼女には尊厳などないのか？

彼は彼女がこうして苦しむ姿を見ることに満足するのか？

そう思うと、綿の涙がこぼれた。

輝明がさらに進もうとしたとき、彼女の涙が唇に落ちた。

彼は一瞬止まり、顔を上げると綿が泣いているのを見た。

輝明の喉が痛み、彼女の腫れた唇を見て、自分がどれほど過ちを犯したかを悟った。

綿は涙を拭い、恨みを込めて尋ねた。「これを知ったら、嬌はどう思うか知ってる？」

「君は嬌のことをそんなに気にしているのか？」輝明はかすれた声で答えた。

「ただ彼女が哀れだと思っただけ」綿は嘲笑し、「彼女はあなたが結婚してくれるのを待っているのに、あなたは前妻とこんなことをしているんだもの」

輝明の目は暗く、彼女を解放した。

彼女の言葉に心が痛んだ。

彼女が気にするべきは自分ではないのか？

「高杉、私を愛していないなら、私を解放して。これ以上誤解を招く行動をしないで。気持ち悪いわ」

綿はそう言って去って行った。

輝明は一人呆然と立ち尽くした。

彼の目は暗く、耳には「気持ち悪い」という言葉が響いていた。

ああ、彼は思いもよらなかった。かつて綿に言った言葉が、今はそのまま自分に返ってくるとは。

気持ち悪いと言われたのは、彼だったのだ。

輝明は頭を垂れ、ポケットを探りながらタバコを吸いたくなった。

綿が部屋を出ると、秋年が輝明を探しているのに気づいた。

綿の目は赤く、口元のメイクが乱れていた。秋年は心配して尋ねた。「綿、大丈夫か？」

綿は首を振った。

秋年はさらに尋ねた。「輝明を見なかったか？」

綿は休憩室を指差し、そのまま洗面所へ向かった。

秋年は眉をひそめ、ふむ？どうして彼女が知っているんだ？もしかして二人は一緒にいたのか？

秋年はすぐに休憩室のドアを開けると、輝明が一人で頭を垂れて何かを考えているのが見えた。

「何してんの？」秋年は片手をポケットに突っ込みながら入ってきた。

輝明は眉をひそめた。「タバコはあるか？」

秋年は彼がタバコを求めるのを意外に思い、笑いながらポケットからタバコを取り出して渡した。「これで、綿と離婚すれば、もう誰もタバコを咎めることはないな」

輝明は一瞬止まった。

ライターの音が響き、微かな光が彼の顔を照らした。

秋年は口元をゆがめ、輝明の乱れた襟元と綿の赤い唇を思い出して、興味津々に尋ねた。「お前たち、さっき何があったんだ？」

「何もない」輝明は冷静に答えた。

秋年は鼻で笑った。「何もない？絶対にありえないだろう！」

「輝明、正直に言え。離婚したくないんじゃないのか？」秋年は輝明の腕を軽く叩いた。

輝明は咳き込んだ。

秋年はすぐに彼を指差して言った。「おっと、やっぱり離婚したくないんだな？」

輝明は秋年を睨みつけ、「タバコが強すぎる」と怒鳴った。

「とぼけるなよ、バレバレだぞ！」

秋年は腕を組んで、賢そうな顔をして言った。「男って本当に馬鹿だよな。好きな時には冷たくして、嫌いになられたら手放したくないって……」

輝明は彼を睨みつけ、タバコを消して灰皿に投げ捨てた。「うるさい！」

「高杉、最低だな！」秋年は言い返した。

高杉は笑い、皮肉を込めて言った。「お前もだろ？」

秋年は気にせず笑った。「最低な男だな、陸川嬌と桜井綿、どちらかを選ばなきゃならないぞ。決断の時だ」

「陸川嬌だ」輝明は即座に答えた。

秋年は笑顔を収め、真剣な顔になった。「本当に綿には何の感情もないのか？」

高校の頃、彼は綿を好きだったはずだ。だから彼女がタバコの匂いを嫌うと知って、禁煙までしたのではないか？

輝明は無言で大股で歩き去り、秋年はその疲れた背中を見つめてため息をついた。

あの誘拐事件が三人の運命を変えてしまったのだ……

「この田中隆司、誰に恨まれてこんなに酷い目に遭ったんだ？」

「顔がもう見る影もないよ！」

レストランの入り口で、輝明は足を止め、担架で運ばれている田中隆司を見た。

田中隆司は輝明を見て震えた。

輝明は冷たい顔をして、田中隆司が綿にしたことを思い出し、怒りが込み上げた。

彼は携帯を取り出し、電話をかけた。「森下、田中氏グループの株を買い占めて、会社を買収しろ。そして田中隆司を裸にして市中心で三日三晩跪かせろ！」