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高嶺の花は色褪せない
高嶺の花は色褪せない
著者: 桃子

第1話

私は最後の料理をテーブルに運び、手を洗って食事の準備をしていた。

しかし、裕也は急に電話を受けた。

電話の向こうからは、女性の怯えた甘え声が聞こえてきた。

裕也は焦った表情を浮かべ、軽く声をかけてなだめた後、コートを手に取って出かける準備をした。

もう何度目かもわからない。

私と裕也が二人きりになると、その女はいつも理由をつけて彼を呼び出す。

今回は何のためなんだろう?

私は冷たく問いかけた。

「裕也、今日は何の日か知ってる?」

裕也は顔を上げることもなく、気のない返事をした。

「結婚記念日だっけ?次回埋め合わせするよ。萌香の方で急用があって、彼女が俺を必要としてるんだ」

付き合い始めた記念日から結婚記念日まで、裕也は何度も白石萌香のために欠席してきた。

けれど、一度でも本当に私に埋め合わせをしてくれたことがあるの?

私は苦しさをこらえながら問いかけた。

「あなた、彼女に本気なの?」

裕也は突然顔を上げ、私を見るその瞳には、後悔と名残惜しさが溢れていた。

彼は言った。

「奈々、彼女は昔のお前に似ているんだ」

私は立っているのがやっとで、椅子を強く握りしめて何とか体を支えた。爪が肉に食い込んでも痛みは感じなかった。

今になってようやく認めざるを得ない。白石萌香は、今までの女たちとは違う。

彼女は、裕也の全ての視線を簡単に引きつけることができるのだ。

裕也は去った。

テーブルの上に並べられた、結婚記念日のために用意した料理が、少しずつ冷めていく。

まるで私の精巧で冷え切った結婚のように。

私はスマホを取り出し、萌香のSNSを見た。

「彼氏が私を愛しすぎて困ってる。ただの生理痛なのに、彼は慌てていろんな物を買ってきてくれた。彼が言うには、今日をお姫様の受難の日と定め、永遠に忘れないって」

投稿には、彼女の腹部に大きな手が添えられた写真が付いていた。

その手首には数千万円もかかる時計があり、裕也だと一目でわかった。

私は、私たちの結婚一周年を思い出した。あの時、裕也の不注意で私は流産した。

その後、彼は泣きながら約束した。どんなに忙しくても、出張中でも、結婚記念日には必ず私の元に戻ると。

けれど今、萌香がただの生理痛に苦しんでいるだけで、彼は彼女の元へ駆けつけている。

じゃあ、私は?

彼は私が流産した時の苦しみを、思い出したことがあるのだろうか?

その投稿には誰も「いいね」をしていない。明らかに私だけが見えるように設定されている。

彼女は私を挑発しているのだ。

なぜなら、裕也は私と離婚したくないから。

それで彼女に私を挑発する権利を与えた。

私と裕也の物語は、ありふれたものだ。

意気揚々とした社長と新進気鋭のジュエリーデザイナーが、一目で意気投合し、恋に落ちた。

付き合う中で、私たちはお互いを深く愛するようになった。

あの頃の私は、明るくて自信に満ちていて、自分の才能と努力でどんな困難も乗り越えられると思っていた。

実際、私のキャリアは急速に成長し、賞を受賞し、私のデザインしたジュエリーは飛ぶように売れた。

私が忙しくて余裕がない時は、裕也がすべてを整えてくれた。

私が悪意ある噂に直面した時も、裕也が全力で私を支えてくれた。

だから、私たちが最も愛し合っていた年に、結婚したのだ。

結婚後も、私たちには甘い時間があった。

当時の私の考えはあまりにも甘かったのだ。男は皆、妻が家事をして子供を育て、夫を中心に生活することを望んでいると思い込んでいた。

しかし裕也は違った。彼の周りには、たくさんの女性が常に寄り添っていた。

だからこそ、彼は私がしつこいと感じ、次々と新しい刺激を求めるようになったのだ。

彼のそばには次々と違う女の子が現れるが、どれも私によく似ていた。

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