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第89話

東雲は雅之から感じる冷たいオーラを察し、目にためらいと葛藤を浮かべたが、結局何も言えなかった。

雅之は冷たく彼を見つめ、「言わないつもりか?じゃあ、もう目の前に現れるな」と言い放った。

「社長!」

東雲はその言葉に驚いて、急に慌てた。

雅之は彼の命の恩人であり、一生ついていくと誓った相手だった。

東雲は歯を食いしばり、「小松さんはある男に尾行されていたんです。逃げ出した彼女はその男に小道に引きずり込まれた。その後、祐介に救われました」と言った。

「バン!」

その言葉が終わると同時に、雅之の拳が東雲の顔面に飛んできた。

東雲は床に倒れ込み、痛みに耐えながら急いでひざまずいた。

雅之は彼の襟を掴み、「よくもそんなことをしてくれたな」と問い詰めた。

本当にそうだった。

里香は本当にそんな目に遭っていた。

それなのに、自分は何をしたんだ?

死の淵から這い上がった里香に、あんな無礼な言葉を口にしたなんて。

さらには、里香と祐介を誤解してしまった。

胸の中で怒りが燃え上がり、雅之の周りの空気はますます冷たくなった。目には赤い光が宿り、頭の中には過去一年間の二人の関わりが浮かんできた。

考えれば考えるほど、心の中に言葉にできない感情と痛みが深くなっていった。

東雲の額には冷や汗が浮かんでいた。

「社長、私はただあなたと夏実さんがうまくいくことを願っていただけです…」

「俺のことを、いつから君が決められるようになったんだ?」

雅之は険しい顔で言い、周囲の空気が凍りついた。

雅之は東雲を放し、身体を起こして冷淡に言った。「東雲、君が自分の考えを持っているのなら、これからは私の側にいる必要はない」

そう言って、雅之は踏み出し、東雲のそばを通り過ぎて行った。

「社長!」

東雲の瞳孔は急に収縮し、雅之の背中を見つめた。

しかし、雅之は彼を構うつもりは全くないようだった。

東雲はぼんやりしてしまった。

彼は何を間違えたのか?

社長は夏実さんのことを本当に大切にしているのでは?

里香の登場はただの偶然であり、その偶然を排除すればいいだけなのに、どうして社長はそんなに怒っているのか?

東雲は雅之を離れることはできなかったが、今、雅之は怒っているから、どうすればいいのかわからなかった。

スマートフォンを取り出し、電話をかけた。「月宮様、
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