共有

第6話

その女の子は、あの日、クラブの個室で雅之にいつ離婚するのかと聞いた子だった。

あの子は親しく雅之の腕を組んでいた。

雅之は潔癖のたちだった。

拾われた当初の彼はほとんど記憶を失っていたが、本能的な記憶の一部は残っていた。周囲に慣れた後、雅之は里香の家を隅から隅まできれいに片付けるようになった。

雅之は人からのものをほとんど受け取らず、屋台のものも食べず、時折普通の人間にはない気質も示した。

しかし今、彼は親しい姿で少女に腕を組まれていた。

つまり、離婚せずにその子との関係を続けたいと言いたいのか?

里香は服を強く握り締め、心臓がきりきり痛み、涙がこぼれそうになった。

どうしてそんなひどいことができるの?

自分が選んだネックレスを他の女にあげるなんて!

里香はスマホを取り出し、雅之に電話をかけたが、かけた瞬間に切られてしまった。ムッとした里香は、再び電話をかけ直した。

里香は繋がるまでかけ続けた。「何の用だ?」

雅之の口調はとても冷たかった。

里香はスマホをしっかりと握りしめていた。電話はつながったものの、何から問いかけたらいいのかわからなかった。

雅之の気持ちはすでに行動に表れていたし、質問する必要はなかったのだろう。

「気分が悪い…」

魔が差したようにかすれた声を発した後、電話を切った。

里香はスマホを握りしめ、時計を見つめた。

昔であれば、里香が体調を崩していると聞けば、すぐに駆けつけていたことだろう。言葉を話せないため、里香に伝える手話さえも乱れが生じてしまう。里香を心配する姿は、決して偽りのないものだった。

時間はゆっくりと過ぎていた。

一時間経っても、ニ時間経っても、玄関には人影が見えなかった。

里香は胸が痛くなり、目を閉じた。

もう本当に自分のことを気にかけてくれなくなったんだね。

里香はソファで丸くなり、まるで傷を舐めている獣のように自分の体を強く抱きしめた。

そうすれば心の痛みも和らぐかもしれないと思ったからだ。

うとうととしていたら、誰かに抱き上げられたような感じがした。

里香はぽかんとして、はっと目を開けた。雅之の端正な顔が視界に入ると、涙があふれてきた。

「まさくん、お帰り」

雅之は里香を抱きしめたまま寝室へ戻り、ベッドに寝かせた後、涙で濡れた里香の顔をじっと見つめていた。雅之はその涙を拭おうと手を伸ばしたが、何とかこらえた。

「こんな嘘をついてまで呼び戻すなんて。離婚届にサインしてくれないし、君は一体何がしたいの?」

テレビで見たのと同じスーツを着た雅之は、いらいらネクタイを緩めた。

里香は一瞬、恍惚とした表情を浮かべた。その口調はあまりにも冷たく、あの子を優しく抱きしめた時の雅之とは真逆だった。

里香は突然ベッドから起き上がり、雅之に近づき、手を伸ばして彼の頬をつねった。

端正な顔がめちゃくちゃにされて、雅之はいらいらしたように里香の手首を握りしめた。

里香は鼻をすすりながら言った。「私のまさくんが目の前にいるどうか確かめたいの。私のまさくんなら、こんなひどいことはしないし、私のことを愛しているから、浮気なんて絶対にしないもの!」

最後の一言を怒って叫ぶように言い出した。

とても悲しいし、あまりにも理不尽だ!

まるで別人のようにいきなりの心変わりを、受け入れられるわけがない。

雅之は里香の手首を握りしめ、無意識のうちに指に力を込めた。過去一年間の記憶に本能的に抵抗しているのだ。

しばらくすると、雅之は里香の手首を緩め、相変わらず冷たい口調に戻った。「里香、潔く別れよ?」

里香は一瞬よろけて、顔が急に青ざめた。

何を言ってるんだ、自分のことを未練たらしい女のような言い方をして!

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status