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第4話

オフィスに自分の席に着いたとたん、同僚が近づいてきた。「ねえ、聞いた?うちが買収されるって話だよ。買収するのは失踪していた二宮家の三代目若旦那で、名前は二宮雅之っていうらしいよ」

里香は固まった。「何だって?」

「二宮雅之さんだよ。写真を見たわよ、超イケメンだったわ。一年くらい姿を消していて、最近になって二宮家に戻ってきたみたい。戻ってきてからは、すぐに支店の大規模な改革に取り掛かっているの。それで、うちの会社も買収されたわけよ。あら、こんなイケメンの上司が現れるなんて、まるで夢みたい」

里香はスマホを取り出すと、トップニュースで一年間行方不明だった二宮家の三男、二宮雅之が帰ってきたと報じられていた。

写真に写っている男性は黒いスーツを着こなし、短く切りそろえた髪型、ハンサムな顔立ち、鋭い目つき、そして冷たさと凛々しさを兼ね備えた気質が溢れ出ている。

まさか、雅之が冬木市の大富豪、二宮家の御曹司だったなんて。

里香は一瞬、言葉にできないほどの感情で胸が満たされた。

皮肉しか思えなかった。

夫が大きな部屋を買える御曹司なのだから、喜ぶべきだったのに、

夫から離婚を切り出されたばかりの彼女には、喜ぶ余裕などなかった。

他の女のために、責任を取るなんて。

冗談じゃない!

里香はスマホを強く握り締め、目には涙が溢れた。

「会議だ。全員、大会議室で集合しろ」

マネージャーが姿を現し、大きな声で指示した後、全員が手帳を持って大会議室へ向かった。

500人を収容できる巨大な会議室は少し騒がしかったが、誰かが手を叩く音と共に、徐々に静けさが訪れた。

「二宮社長のご登場です。皆さん、社長を大いに歓迎しましょう!」

マネジャーが興奮気味に言葉を投げかけたその時、会議室のドアが開き、黒いスーツを身にまとった上品な男性が颯爽と入室した。

後ろの席に座っていた里香は、まるで生まれ変わったかのように変貌したあの男を見て、まったく知らない誰かを眺めているような気がした。

男は冷たい目つきで、温度を感じさせないほどの低い声で話した。入社したばかりなのに、早速頭がくらくらするほどの様々な命令を出した。

三時間以上続いた会議が終わり、社員たちが次々と会議室から出ると、里香も立ち上がって会議室を出ようとした。

男を無視することにした。

「ちょっと待った」

その時、後ろから男の低い声が聞こえた。

里香は足を止め、振り返って雅之のほうを見て、少しだけ唇をすぼめた。「社長、何のご用ですか?」

その態度は、昨夜肌を合わせたことがなかったかのように、冷淡だった。

雅之は書類を手に持ち、暗い目で彼女を見て、「オフィスに来なさい」と言って、

先に立ち去った。

里香は少し深呼吸して、彼のあとをついて行った。

オフィスのドアが閉まると、雅之は顔を顰めて彼女を見ていた。「どうして離婚届を破ったのか?」

里香は彼を見つめ、「まだおめでとうって言わなかったね、社長」と、

少し皮肉を帯びた口調で返した。

雅之はおそらくかなり前から記憶を取り戻していたに違いない。そうでなければ、二宮家に戻ったばかりで、こんなにすぐに仕事に取りかかることはできなかっただろう。

雅之は自分に嘘をついた。

厳密に言うと、自分は騙されていた。

雅之は一瞬表情を凍らせ、里香を見つめた。「里香ちゃん、僕たち揉めたことは一度もないし、仲良く別れてくれない?」

「嫌だね!」

里香は突然怒り出し、涙を抑えきれなくなった。「まさかあなたがこんな最低な男だったなんて思いもしなかった。 いつ記憶を取り戻したの? いつから話せるようになったの? 妻として、あなたの一番身近な人間である私が、まんまと騙されていたなんて!」

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