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第90話

「承知しました、社長。他に何かご指示はありますか?何でもお任せください」

「迎えは必要ないが、彼女がここに来るまでできるだけ時間を稼いでほしい。時間を稼げれば稼げるほど、その分給料を上げる」

電話の向こう側で少し驚いた声が聞こえた。社長と夫人の関係は本当に良くなかったのだな、とアシスタントは心の中で呟いた。

「分かりました、できる限り引き止めます」

社長と夫人の関係がこんなにも悪かったとは。おかげで昇給のチャンスが来たとはね。

やれる!

給料アップ待ってて!アシスタントは心の中で歓喜の声を上げた。

最近新しく雇ったこのアシスタントは、前のアシスタントと比べたら、彼の理想にぴったりで、仕事もきびきびとこなしてくれた。

「机の上の書類は昨日まだ全部処理できていない。だから、処理済みの書類を選び出し、各部門に配って、指示された内容を進めさせてほしい」

「そして、今日の仕事の残りの書類は私の机の引き出しにしまっておいてくれ。鍵をかけて、私が来るまで待ってて」

「わかりました、社長」

仕事の話になると、アシスタントはすぐに真剣な表情になった。

夫人のことは大したことではなかった。

ところで、夫人のこと、本来生活上のアシスタントの仕事だが、そのアシスタンは彼のいとこで、ちょっと不器用な性格だった。だから、彼が代わりにすべてを引き受けたしかなかった。

すべてを手配し終えた氷川は、きっぱりと電話を切った。

彼は着替えを済ませると、家のダイニングルームに向かった。

そこでは、美咲がすでに食事を始めた。

だが、氷川は美咲が食事をしたことを全く気にしなかった。彼にとって、美咲の喜びが一番大切だった。

なぜ彼女に自分を合わさせたか?

氷川は美咲を大切にしていた。美咲は彼の妻、彼が美咲を深く愛していた。

彼は黒崎拓也のような男ではなかった。

朝食の間、二人は静かに食事を済ませた。

今日は年配の方がそばにいたため、二人はいつもよりおとなしく食事をした。

食事が終わると、主に料理をしていた年配の方々が素早く食器の片付けを始めた。

そして、食後、氷川は、出発前美咲に別れのキスを求めた。

「昨日の夜、よく眠れなかったんでしょう?」と美咲は心配そうに言った。

それを聞いた氷川は優しく彼女を慰めた。「一晩眠れなかっただけだから、そんなに心配しないで」

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