第87話

氷川と美咲が楽しそうに映画を観ていた。しかし、ミルクティー店では、千夏と佐藤の間に微妙な空気が流れていた。

「どうしてこんなに早く迎えに来たの？私は美咲と一緒にショッピングに行くって言ったじゃない」と千夏は佐藤を問い詰めた。

佐藤は千夏を優しく慰めた。「千夏のことを心配するから、友達の旦那さんも迎えに来るとは思わなかった」

千夏は本当のところ、自分が怒っている理由がそれほど大したことではないと分かっていた。今日は佐藤が来なくても、帰宅するつもりだった。でも、彼女も怒っていた。

それは、彼が話の途中で電話をかけてきて邪魔をしたからだった

佐藤はどうして彼女がそんなに怒っていたのか理解できず、ただ優しくなだめ続けたしかなかった。

佐藤は彼女を喜ばせたために、「千夏、そんなに怒らないでね。土曜日に明神の湖に行こうよ。熱気球やロープウェイにも乗れるし、もし必要なら、一緒にバンジージャンプもするよ」と言った。

彼にとって、バンジージャ湖プのことを考えると顔が真っ白になった。

どうしよう、彼は高所恐怖症があった。でも、千夏の前では決して怖い顔を見せなかった。

佐藤の言葉を聞いた千夏は少し安心した。彼は普段忙しいから、一緒に過ごした時間も少なかった。

付き合った前は彼女に夢中だった。それなのに、今は冷淡になりそうだった。それを思いだすと、千夏はついにといかけてしまった。

「私を追いかけるのは本気なのか？」

「僕は真面目だ、どうして僕を信じないよ」

佐藤の真摯な表情に、千夏は心が揺れた。

千夏は佐藤の目を見ると、何となく罪悪感を感じ始めた。彼は誤解されると、哀れな犬の目をして、しばらくは離れたくなかったと懇願した。

それを思ったら、千夏は急いで話題を逸らした。

「ところで、美咲の旦那とはお知り合ったのか？」

その問いに佐藤は何も言えず、言葉が喉に詰まった。彼は確かに美咲の夫を知っていた。

今回は初めての面会ではなかった。

美咲の旦那は氷川グループのトップ、彼のビジネスのパートナーだった。しかし、その事実は千夏には決して話せなかった。自分は偽名を使い千夏を追い求めたから、今、氷川颯真との関係を彼女に明かしたら、彼女はきっと詳しく尋ねてきた。

どのようにして知り合ったのか、どう答えるべきか。真実を告げたわけにはいけなかった。

千夏にとって、自分