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第19話

夜十時。

仕事を片付けた後、氷川は寝室に戻り、そこでぽっかりと空いたダブルベッドを見た彼は、深く息を吐き出した。寂しさが部屋に静かに満ちていた。

彼はパジャマを持って、浴室に入った。

しかし、ベッドに寝た氷川は、まったく眠れなかった。彼の頭の中には、美咲のことがずっと渦巻いていた。

そして、彼は隣室へと足を運んだ。彼は静かにドアを開けて、部屋の状況を見た後、優しい微笑みが彼の顔に広がった。

そっとドアを開けてみると、にっこりと笑った。

美咲はすやすやと寝ていた、何の警戒もしていなかった様子だった。

暗闇の中、ベッドにそっと入った。しかし、彼女はぐっすりと眠り、部屋にもう一人がいたことに全く気づかなかった。氷川は彼女を優しく抱きしめた。

知らなかった気配を感じた美咲は不安で体をくねらせたことが、氷川の心を乱した。

それと比べて、美咲は目を閉じ、心地よい姿勢を探りながら、氷川をしっかりと抱きしめて、まるでタコが相手に絡みつくように彼に密着した。

そんな時、氷川は美咲の部屋に入ったことを後悔した。それは、彼女の香りがした瞬間、彼は自然に興奮してしまった。今、彼は眠れなくなってしまった。氷川は欲望を抑え込み、ただ天井を見つめたままだった。

今日はもう金曜日。

美咲は普通の社員ではなかった。

彼女にとっては、自分の会社であっても、出勤を避けるわけにはいかなかった。

二階から降りた美咲は、氷川の姿が見なかったので、ほっとした。彼女はまだ彼にどう向き合っていいか分からなかった。

テーブルを拭いだ松本は、足音を聞いたあと、微笑んで美咲に話をかけた。「奥様、こんにちは。氷川さんはまず会社に行った。もう少しお休みになってはいかがでしょうか」

美咲も微笑んだ。「松本さん、そんなに遠慮しないで。私もそろそろ仕事に出かける」

彼女は話しながら玄関に向かって、ハイヒールに履き替えた。

今日は銀灰色のスーツを選んだ彼女は、硬さを感じさせず、むしろ洗練された印象を与えた。

「奥様、朝食を召し上がってから…」と松本は続けた。

美咲は手を振りながら、バッグを持って出かけた。

彼女の車がなかったため、今日は仕方なく地下鉄で出勤したことになった。

一時間後、美咲はやっと会社に到着した。会社の名前は美咲マンガ会社だった。

でも、いくつかの空席を見ると、美咲は少し怒った。

この会社は、昨年、彼女が帰国した際に設立されたものだった。

彼女がその会社を立ち上げたのは、偽りの笑顔を向けてきた橋本月影や、父の露骨な偏愛を目にしたのが嫌で、もっと自由な空間を求めていたからだった。

この会社を設立した当初、月影は商売の才能がなかったので、会社が1ヶ月で倒産しただろうと彼女を皮肉した。

でも、実には、この会社はもうすぐ破産した。

過去の一年間、美咲は黒崎グループのファッションショーのために、全ての心血を注いできた。

考えてみれば皮肉なもので、自分の会社を顧みず、彼のために一年間無償で働いたなんて。

なんという皮肉なことか!彼の本性を見極め美咲はこれからは自分の会社を一心に育てていった決心をした。

美咲が事務室に入ったと同時に、ドアが開かれ、秘書の桜井綺美が入った。

桜井は書類を渡しながらため息をついて言った。「橋本さん、これが佐藤たちの退職届です」

美咲がそれを受け取り、桜井に向かって苦笑いを浮かべながら、「やっぱり、彼女らは去ってしまった」と言った。

「橋本さん、早急に会社の経営を見直してください。これ以上質がいい漫画が提供できなければ、会社も存続の危機に瀕しますよ」桜井はもう我慢できずにため息を漏らした。「佐藤たちは、橋本グループ傘下のマンガ会社に引き抜かれたそうです」

これは美咲にとって、予想外のことだった。

美咲マンガ会社が成立した一か月後、橋本マンガ会社も立ち上げられた。その設立者は橋本月影だった。

彼女のチームから優秀なスタッフを引き抜いてしまった。

「橋本月影、今後私は絶対に情けはかけない」と美咲は心の中で決めた。

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