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第5話

著者: 朝月
last update 最終更新日: 2024-09-29 19:45:00
ただ、健一の父親が誰なのかはわからない。

美雪は特に友達もおらず、昔の同級生ともほとんど連絡を取っていない。

俺の印象では、彼女はひ実家にたまに帰る以外、あまり外に出かけることもなかった。

ピンポーン――

携帯の通知音が俺の思考を遮った。

美雪からだった。おそらく佐々木家もそろそろ焦ってきたのだろう。これまでは、美雪が実家に帰ると、だいたい二日も経たないうちに、俺はお土産を持って迎えに行っていた。

しかし、今回はすでに五日も経っているが、俺からは何の連絡もしていない。

あちらの家には、佐々木の父母、そして彼女の弟家族が住んでいる。彼らだけなら広々しているが、美雪と健一が戻ると少し狭く感じるだろう。

さらに、佐々木父と佐々木母の考えでは、娘は一度嫁いだらもう他人だ。

家族を助けるのは当然だが、いつまでも実家に居座るのは彼らにとって好ましくない。

「裕司、最近仕事が忙しいの?なんで帰ってこないの?」

美雪からのメッセージが俺の注意を引いた。昇進のことは美雪には話していないはずだ。

だが、翌日、佐々木母が突然やってきて、俺の昇進や給料の話を口にしたことが頭に引っかかっていた。

少し考えた末、俺は美雪を尾行するために休暇を取るのをやめた。

代わりに、ネットで高額な料金を支払い、探偵に依頼して情報を送ってもらい、静かに結果を待つことにした。

佐々木家のことは、もう少し引き延ばす必要がある。

「君の弟の借金、何とか返せそうか?どうなんだ?」

メッセージを送った後、美雪は再び黙り込んだ。きっと、彼女は俺に話のきっかけを与えたにもかかわらず、それを無視しまたお金を要求してきたことに腹を立てているのだろう。

5

三日後、私立探偵からは何の進展もなかった。

美雪は佐々木家にいる間、一度も外出していなかった。

彼女たちに動きが出るように仕向けなければならない。

俺は、美雪の弟である佐々木正宏が昔俺に書いた借用書を裁判所に提出した。

彼らは、美雪さえいれば俺をずっと操れると思っていたのか、適当に書いた借用書でその場をしのごうとしたのだ。

佐々木家全員が同じように自信過剰で無知だった。

裁判所の召喚状が佐々木家に届いたとき、家中が大騒ぎになったのだろう。。

佐々木母、美雪、正宏から次々と電話がかかってき
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    「昇進はしたけど、給料は来月から上がる予定なんだ」 俺は、子供を抱いた美雪と、足元に置かれた彼女の荷物に目をやった。 心の中で、またかとため息をついた。 毎回問題が発生すると、彼女たちが何かを要求してきて、それを俺が断ると、美雪は必ず健一を連れて実家に帰るのだ。 美雪と健一を失いたくない、だから俺はいつも折れて、美雪を迎えに行き、彼女たちの理不尽な要求を受け入れてきた。 案の定、美雪の母は俺を罵倒し始めた。 「お金のことは自分で何とかしなさいよ。姉が弟を助けるのは当然のことだし、あげたお金を取り返すなんて恥ずかしいこと言わないでよ」 横に座っていた美雪の父は、煙草を消し、不機嫌そうに口を開いた。 「美雪と子供は俺が連れて行く。お前はよく考えてから来い」 美雪の母も立ち上がり、荷物を持って玄関に向かった。 「さあ、行こう行こう。この家は狭くてボロいし、日当たりも悪い。美雪と子供がここに住むなんて、よくもまあ」 まるで、かつてこの家を俺に売りつけようと、彼らがどれだけこの家を褒めちぎったか忘れてしまったようだ。 美雪は子供を抱え、振り返ることなくそのまま出て行った。 俺は心の中で自嘲した。なんて愚かだったんだろう。 美雪が、俺をただ利用していただけで、愛情なんて少しもなかったことに、今になってようやく気づいた。 俺は家庭の温かさを知らずに育ったが、美雪と結婚した後、自分は完璧な家庭を築いているのだと頑なに信じ込んでいた。 だからこそ、こんな連中に利用され続け、骨の髄まで搾り取られたのだ。 もう、彼らに情けはかけない。 4 美雪たちが出て行った後、俺は家中をくまなく探した。 健一はまだ幼く、髪の毛は見つからなかったが、ゴミ箱の中に美雪が切った健一の爪が捨てられていた。 その爪を集め、健一が普段使っているおしゃぶりなども一緒に用意した。 翌朝、俺はそれらのサンプルと自分のものを持って病院へ行き、鑑定を依頼した。 家に戻り、次に家の権利書を持って不動産屋に行き、家を売りに出した。 不動産屋に鍵を渡し、会社の社員寮に申し込んだ。 自分の荷物をまとめ始めたが、驚いたことに、この家で三年間暮らしてきたにもかかわらず、俺の持ち物は驚くほ

  • 破滅の婚姻   第3話

    俺は、疑われないように部屋にこもった。 深夜。 美雪と健一はもう寝ているのに、俺は眠れず、ベッドの上で悶々とした思いを抱えていた。 これまでの美雪との日々を振り返っても、どうしても信じられなかった。 こんなにも長い間一緒にいて、美雪は一度たりとも俺が残業で遅く帰ってきたことを愚痴ったり、数えきれない接待に対して怒ったりしなかった。 辛くて折れそうになるたびに、俺は、こんな優しい妻がいるんだ、もっと頑張らないと彼女に申し訳ない、と思い耐えてきた。 しかし、まさか、愛されていなかったなんて。 愛していないから、俺が帰ってこようが誰と付き合っていようが気にしなかったんだ。 愛していないから、毎晩帰ってくる俺の酒臭さや、吐血しながら無理している姿をわざと見て見ぬふりをしていたんだ。 そう考えると、俺は怒りで思わず起き上がった。 そっと美雪のスマホを手に取り、彼女のサブアカウントを探し出して、二人のチャット履歴をすべてバックアップした。 次に、「大好きな旦那さん」のアカウントを開き、しっかりと調べた。 その男もサブアカウントを使っているようで、アイコンは真っ黒、名前はZQだった。 健一の写真以外は、ほとんど何も情報が載っていなかった。 Lineを閉じ、美雪の銀行口座の明細を確認すると、毎月ZQに60万円から100万円も振り込まれていた。 残高は5600万円以上あった。 「ふん......美雪ってこんなに金持ちだったんだな。私が年々苦労して貯めたあの数百万円は屁でもなかったんだな」心の中で自分を馬鹿だと思いながら、俺はその記録も全て写真に収めた。 3翌朝。 いつも通りの顔で起き、美雪と健一の朝食を作り、二人に出した。 そして、出かける前にふと立ち止まり、美雪にこう言った。 「そうだ、美雪、君の弟に貸したお金、そろそろ返してもらえるかな。こないだ高校時代の友人に会ったんだけど、彼がいいプロジェクトを持っているんだ。ちょっと挑戦してみようと思ってね」 「もし厳しいなら、とりあえず1000万円だけでも返してもらえたら助かる」 そう言った瞬間、美雪の表情が一気に冷たくなった。 彼女が何か言いかける前に、俺はすかさず話を切り上げた。 「会

  • 破滅の婚姻   第2話

    一度目は、俺たちが婚約した後すぐのことだった。 やっとの思いで頭金を貯めて、会社の近くにマンションを買う準備をしていた。新婚生活を送るための新居だ。 だが、妻は反対し、家族も一緒になってメリットやデメリットをあれこれ分析し始めた。 結局、俺が買ったのは、妻の両親が20年間住んでいた古い家だった。 そして、彼女の両親は、俺にその家を売ったお金と俺が渡した結納金を使って、新しく開発されたリバーサイドのマンションに引っ越した。 その時妻は、俺の胸に寄り添いながら、甘く「旦那さま」と呼び、「この家は最良の学校区のすぐ近くにあるし、将来うちの子供はきっといい教育を受けられるね」と、夢を語ったのだった。俺の心は幸せで満たされ、未来の生活への期待に胸が高鳴った。 古い家でも、悪くない。生活の温もりが感じられる。 会社からは少し遠いが、努力して車を買えば通勤も楽になるだろう、そんなふうに楽観的に考えていた。 二度目は、彼女が流産して間もない頃だった。 彼女の弟が結婚することになり、相手の家が1320万円の結納金を求めていた。 しかし、彼女の両親はすでに家を買うのにお金を使い切っていた。 そこで、彼女は俺に、弟の結納金を立て替えてほしいと頼んできた。 そのとき、彼女はまだ流産後の体調が完全には戻っておらず、青ざめた顔でベッドに横たわっていた。 大きな瞳で涙を浮かべながら、俺に「お願い、旦那さま」と、今まで聞いたことのない優しい声で囁いた。 俺は、罪悪感と妻への愛情から、仕事のストレスで吐血するほど体調が悪いのを隠し、プロジェクトで得たボーナスを全て注ぎ込み、さらに貯金していた車の頭金までも使って何とかそのお金を工面した。 2その二度以外、彼女はいつも俺のことを「裕司」と、冷たくもなく温かくもない様子で呼んでいた。俺はずっと、彼女の両親が弟ばかり優遇していたせいで、感情をうまく表現できなくなった、不器用な女性だと思っていた。 しかし、本当は違った。彼女は感情を表現する術を持っていたのだ。 彼女がその「大好きな旦那さま」と話している時の、情熱的な言葉遣い。それは俺が思わず顔が赤くなるほどだった。 もし、俺が彼女と結婚していなかったなら、これはなんて幸せな家族だろう

  • 破滅の婚姻   第1話

    1やっと昇進した。 長い間、文句も言わずに働いて、ようやく今日、俺は部門長に任命された。 面倒な仕事を押し付けられることもなくなり、これで少しは息がつけるようになるだろう。 もっと家に帰る時間も増えるし、妻が家事に追われる負担も減らせるだろう。 今日は、仕事を終えた後、珍しく早めに帰宅することができた。 一人で息子の世話をしている妻の姿を思い浮かべ、自然と笑みがこぼれた。 帰り道、花屋に寄って、妻が好きな花を買った。昇進の喜びを一緒に分かち合いたかったのだ。 家に着くと、妻は息子のベッドのそばで眠っていた。疲れが顔に出ていた。 息子はおとなしくベビーカーで遊んでいた。 花束をそっとテーブルの上に置き、できるだけ静かに妻に近づいて、抱きかかえて寝室に運ぼうとした。 その時、妻のスマホが急に光って、通知が表示された。 俺は妻のスマホのパスワードを知っていたが、これまで一度も彼女のスマホを見たことはなかった。 しかし、その瞬間、なぜか自然に俺の手がスマホに伸びてしまった。 「美雪、俺たちの息子は何してる?」そのメッセージを見た瞬間、俺は頭が真っ白になった。 自分が妻に送ったメッセージで、ただ受信が遅れただけだと思ったが、画面に映る見慣れないアイコンと名前が、そんな思いを簡単に打ち砕いた。 大学時代、俺と美雪は出会った。 五年間付き合って、卒業後すぐに結婚した。 俺は孤児だったが、美雪は家族の反対を押し切って俺と結婚してくれた。 そんな彼女に何もかも返したいと思い、俺は必死に働いてきた。 あの年、仕事に追われ、美雪を気遣う余裕がなく、最初の子どもを失った。 女の子だった。 そして、それから三年、やっと俺たちはもう一人の子どもを授かることができた。 やんちゃな息子、健一だ。 妻が出産でどれだけ苦労したかを考え、俺はさらに一生懸命働いた。 同僚のミスをかぶり、上司の接待で酒を飲み、時には病院に運ばれるほど無理をして働いた。 その結果、体型も変わり、学生時代の「クラスのイケメン」なんて呼ばれていた自分は、もうどこにもいなかった。 今では、鏡に映るのはただの中年太りの男だ。 まだ眠っている妻を見つめながら、俺は何と

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