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第3話

俺は、疑われないように部屋にこもった。

深夜。

美雪と健一はもう寝ているのに、俺は眠れず、ベッドの上で悶々とした思いを抱えていた。

これまでの美雪との日々を振り返っても、どうしても信じられなかった。

こんなにも長い間一緒にいて、美雪は一度たりとも俺が残業で遅く帰ってきたことを愚痴ったり、数えきれない接待に対して怒ったりしなかった。

辛くて折れそうになるたびに、俺は、こんな優しい妻がいるんだ、もっと頑張らないと彼女に申し訳ない、と思い耐えてきた。

しかし、まさか、愛されていなかったなんて。

愛していないから、俺が帰ってこようが誰と付き合っていようが気にしなかったんだ。

愛していないから、毎晩帰ってくる俺の酒臭さや、吐血しながら無理している姿をわざと見て見ぬふりをしていたんだ。

そう考えると、俺は怒りで思わず起き上がった。

そっと美雪のスマホを手に取り、彼女のサブアカウントを探し出して、二人のチャット履歴をすべてバックアップした。

次に、「大好きな旦那さん」のアカウントを開き、しっかりと調べた。

その男もサブアカウントを使っているようで、アイコンは真っ黒、名前はZQだった。

健一の写真以外は、ほとんど何も情報が載っていなかった。

Lineを閉じ、美雪の銀行口座の明細を確認すると、毎月ZQに60万円から100万円も振り込まれていた。

残高は5600万円以上あった。

「ふん......美雪ってこんなに金持ちだったんだな。私が年々苦労して貯めたあの数百万円は屁でもなかったんだな」

心の中で自分を馬鹿だと思いながら、俺はその記録も全て写真に収めた。

3

翌朝。

いつも通りの顔で起き、美雪と健一の朝食を作り、二人に出した。

そして、出かける前にふと立ち止まり、美雪にこう言った。

「そうだ、美雪、君の弟に貸したお金、そろそろ返してもらえるかな。こないだ高校時代の友人に会ったんだけど、彼がいいプロジェクトを持っているんだ。ちょっと挑戦してみようと思ってね」

「もし厳しいなら、とりあえず1000万円だけでも返してもらえたら助かる」

そう言った瞬間、美雪の表情が一気に冷たくなった。

彼女が何か言いかける前に、俺はすかさず話を切り上げた。

「会社に遅れちゃうから、君の弟に話しておいてね。じゃあ、行ってくる」

家を出た後、俺は長く深呼吸をして、溜まった気持ちを吐き出した。

美雪の弟はろくでもない奴で、これまで何度も尻拭いをしてきたが、あいつには借りた金を返す気なんてまったくないだろう。

だが、もし俺が本気でこの金を要求したら、美雪は自分の貯金を犠牲にするのか、それとも彼女が一番大事にしている弟を犠牲にするのか。

それとも、いつものように甘い声で「旦那さん」と囁いて、また俺に何とかしてもらおうとするのか。

家に帰ると、美雪の両親がリビングのソファに座っていた。

俺が帰るのを見ると、美雪の父も母も一切俺を見ようともしなかった。

俺は気にせず前に進んだ。

「お父さん、お母さん、いらっしゃいませ」

美雪の母は軽蔑の眼差しを向け、すぐに切り出した。

「昇進したって聞いたけど、給料は上がらなかったの?」

「三十代にもなって、貯金もないなんて、何かあるたびに妻の弟に金を頼むなんて、本当に情けないわ」

「虫が竜になることなんてできないくせに、投資だのなんだのと偉そうに。だから最初から美雪がこんな役立たずと結婚するのに反対していたのよ」

美雪の母はいつも俺にこうだ。遠慮もなく容赦なく罵る。美雪のために何度も我慢してきた。

しかし、今日驚いたのは、美雪の母が俺の会社の事情を知っていたことだった。

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