Share

第0054話

小さな足音に気づいたのか、幼い子供がくるっと振り向き、瑠璃の方を見た。その顔はまるで人形のように愛らしく、澄んだ大きな瞳が瑠璃をまっすぐに見つめていた。

瑠璃の中に燃え上がっていた憎しみは、その瞬間にかき消され、代わりに湧き上がったのは、表現できないほどの愛おしさと親近感だった。

思わず涙が浮かび、胸がいっぱいになった。

「私の娘も生きていれば、この子と同じくらい可愛かったはず……」そう考えずにはいられなかった。

隼人の優れた容姿を考えれば、子供が同じように美しくなるのも当然だ。

瑠璃は身をかがめ、そっとその滑らかな頬を撫でた。「可愛い子ね、お名前は?」

その子は大きな目をぱちぱちさせながら、「パパとママは、僕のことを君ちゃんって呼ぶんだ」と素直に答えた。

その「パパとママ」という言葉が、瑠璃の心に鋭く刺さった。

彼女の子供も、本来なら「パパ」「ママ」と呼んでいたはずなのに……。

「瑠璃、何をしようとしているの?私に恨みがあるなら私に向ければいいけど、どうか、私と隼人の息子を傷つけないで!」

蛍が突然、悲鳴を上げた。その言葉には「私と隼人の息子」という部分が特に強調されていた。

瑠璃はその叫び声を聞き、思わず笑いそうになった。この無垢な子供に何もするつもりはなかったのに。

もしかしたら、自分も蛍のように冷酷な心を持つべきなのかもしれない。

「ママ!」

君ちゃんはすぐに蛍の元へ駆け寄り、蛍は心配そうに彼を抱きしめ、体を確認した。

「君ちゃん、大丈夫?どこも痛くない?」

瑠璃は小さく笑った。「蛍、あなたの演技、本当に上達したわね」

「瑠璃、どうしてそんなに冷酷なの?」蛍は涙ぐんだ目で瑠璃を見つめ、「3年前、あなたは私の恋人を奪い、私と隼人の最初の子供を殺した。どうして今も息子を傷つけようとするの?私たちは血を分けた姉妹ではないけど、私はいつもあなたに優しくしてきたのに」

彼女は涙ぐんだ声で、まるで哀れな被害者を演じているようだった。

瑠璃はその言葉を静かに聞き、冷笑を浮かべた。「確かに、あなたはとても親切にしてくれたから、私もちゃんと「お返し」するわ。親愛なるお姉さまに」

蛍はその言葉に戸惑い、何も言えなかった。

瑠璃は蛍の戸惑う顔を見て、少し満足感を感じた。

これ以上言い争うのは無意味だと思い、瑠璃は
Locked Chapter
Continue to read this book on the APP

Related chapters

Latest chapter

DMCA.com Protection Status