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第0053話

彼の低くて魅力的な声が耳元を撫で、瑠璃の心臓が一瞬速く鼓動した。しかし、もう彼に対する無邪気な期待はなく、今は隼人に対する憎しみが愛情を上回っていた。

瑠璃は、目黒の爺さんが自分の刑務所での過去をまったく気にせず、逆に優しく新しい人生を始め、隼人と一緒に幸せな日々を送るようにと励ましてくれたことに驚いた。

普通なら、そんな孫嫁の前科に激怒し、嫌悪するはずだが、目黒の爺さんはそうではなかった。その予想外の温かさに瑠璃は感謝と安心を感じた。

それは、亡くなった祖父のことを思い出させた。祖父もまた、優しさに満ちた老人だった。

瑠璃は目黒家の本宅で食事をしたが、目黒の爺さん以外は皆、冷ややかな視線を彼女に向けていた。特に隼人の母親は、露骨に嫌悪感を示していた。

目黒の爺さんが席を外すと、隼人の母親はすぐに冷ややかな声で瑠璃に話しかけた。「わかってるなら、目黒の爺さんの前で身を引いて何も持たずに離婚して。隼人と蛍の結婚を邪魔しないで」

彼女は高圧的な態度で鼻を高く上げ、威圧感を漂わせた。

「蛍はあんたのせいで子どもを失ったのよ。少しでも良心があるなら、さっさと離婚しなさい」

瑠璃はようやく彼らの意図を理解し始めた。隼人を見つめたが、彼は何も言わなかった。どうやら、これが彼の本心のようだ。

瑠璃は急に笑いたくなった。結局、彼らは目黒の爺さんに逆らう勇気がなく、彼女自身から離婚を切り出させようとしているのだ。

その時、蛍が現れた。彼女は小さな愛らしい男の子の手を引いていた。

瑠璃の心は痛みで締め付けられ、その愛らしい顔を見ると、失った我が子を思い出さずにはいられなかった。

蛍の傍らにいるその子を見て、瑠璃の心は引き裂かれるような苦しみを感じた。

もし自分の子どもが死んでいなければ、この子と同じくらいの年齢になっていたはずだ。

瑠璃の心に強烈な不満が湧き上がった……

蛍の勝ち誇った笑顔を見て、瑠璃はほのかな笑みを浮かべた。「どうして私が離婚を提案しなければならないんですか?」

この質問に、蛍の笑顔は瞬時に消えた。

隼人の反応は意外と落ち着いており、彼は面白そうに瑠璃を見つめたが、何も言わなかった。

瑠璃は彼の視線に不快感を覚えつつも、「隼人、私は離婚しないわ。だって、あなたと寝るために、これだけの努力をしたのだから、それを無駄にするわけにはいかな
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