第0060話

蛍は、無垢で何も知らないような瞳を輝かせ、か弱い声で囁いた。

しかし、こんなにも露骨にあざとい姿を見せても、男たちはまるで何も見えていないかのように、それを喜んで受け入れていた。

瑠璃は、隼人が承諾するだろうとわかっていた。そして案の定、彼は軽く頷いて、「じゃあ、ここに泊まっていけばいい」と言った。

やっぱりそうか、と瑠璃は心の中で苦笑した。横目で蛍の挑発的な視線を感じたが、その得意げな表情は数秒で消えた。

隼人が佐藤さんに目をやり、こう命じたのだ。「四宮さんに客室を準備してくれ」

スープを飲んでいた瑠璃は、その一言に驚き、思わずむせそうになった。

蛍の顔から、先ほどまでの勝利の色が瞬時に消え去った。

まさか？信じられない――この「四宮さん」って、私のこと？と一瞬思ったが、すぐに隼人が指しているのが蛍だと理解した。

蛍は大人しく品の良い態度を保とうとしていたが、額に怒りの血管が浮かんでいた。その様子を見て、瑠璃は大きな満足感を覚えた。

それでも、隼人が蛍を本当に冷遇するとは思わなかった。きっと、召使いがいる前では、堂々と蛍と密会することはできなかったのだろう。

瑠璃が部屋に戻って間もなく、隼人がやってきた。

彼と対話することに疲れていた瑠璃は、隼人が静かに身支度を整える様子を見つめながら、「目黒隼人、あなたは一体何を考えているの？」と尋ねた。

その言葉が響くと、部屋はしばらく静まり返り、外の雨音だけが聞こえた。

しばらくしてから、隼人は冷たい声で言った。「目黒若奥様の座を続けたいんだろう？」彼は振り返り、その深い瞳に得体の知れない光を宿しながら続けた。「そんなにその座に執着するなら、ずっと座っていればいい」

彼の声は平静だったが、瑠璃は冷たい風が一気に彼女を包み込み、全身が凍りつくような感覚を覚えた。その冷気は彼女の肌を通り抜け、心の奥底まで到達した。

……

翌朝、瑠璃が目を覚ますと、別荘は静まり返っていた。

昨日の夜、蛍が受けた屈辱を考えれば、彼女が黙っているはずがないと思った。

蛍の罠にかからないように、瑠璃は早々にその場を離れ、律子のところへ戻ることにした。

まだ眠そうな律子だったが、瑠璃が昨夜の出来事を詳しく話すと、彼女はベッドから飛び起きて言った。「目黒隼人がまだ離婚してないって！？ねえ瑠璃ちゃん、隼人が突然目を覚めて