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第0010話

翌朝、目覚まし時計が鳴り響かなければ、瑠璃は起き上がれなかっただろう。

昨夜、酔っ払って隼人に言った言葉や、取った行動を思い返すと、彼女の頬は赤く染まってしまった。

会社に戻っても、瑠璃は心ここにあらずで、デザインを描きながらも、隼人の姿が頭から離れなかった。

12年もの間、彼を深く愛し続けた思いを断ち切ることは、すぐにはできなかった。

無意識に、まだ平らな自分のお腹に手を当てた。もし可能であれば、子供に完全な家庭を与えたいと切に願っていた。

「ピン!」

突然の通知音が、瑠璃の遠くに飛んでいた意識を現実に引き戻した。

彼女が画面を確認すると、それは隼人からのメッセージだった。

瑠璃の心臓は一気に不規則に跳ね、震える手でメッセージを開いた。

最初に目に入ったのは一枚の写真だった。それは瑠璃と蛍が撮った写真で、彼女が四宮家に入ったばかりの頃のものだった。

写真の中で、蛍は高価なドレスを着て、明るい笑顔を浮かべていた。まるで、塵一つない高貴な姫君のようだった。一方、瑠璃は灰色のワンピースを着ており、まるで暗い隅にいる醜いアヒルの子のように見えた。

そして、その写真の下には隼人からのメッセージが続いていた。彼女がその内容を目にした瞬間、指先から冷たさが広がっていった。

「蛍を見てから自分を見ろ。お前みたいな汚くて卑しい女が、俺の妻になる資格があると思うのか?」

その言葉は鋭利な刃のように彼女の心を貫き、耐え難い痛みをもたらした。

12年前の夏の日を思い返しながら、瑠璃は今の隼人が自分に向ける冷酷な憎しみを直視できなかった。

「隼人、あなたは言ったはずよ。今まで会った中で、最も優しくて可愛い女の子だって。私を花嫁に迎えて、一生一緒にいるって言ったのに、今はどうして?」と瑠璃は思った。

瑠璃の心は激しく震え、自分が隼人を忘れることができないことに気づいた。

彼女はすぐに隼人にメッセージを送った。「隼人、私に偏見を持っていることはわかっているけど、私は妊娠しているの。あなたを愛するチャンスをちょうだい。赤ちゃんに完全な家庭を与えてあげようよ、ねぇ?」

メッセージを送信した後、瑠璃は緊張と不安でいっぱいになり、一方で少しの期待も抱いていた。

隼人が彼女が自分の子供を妊娠していることを知ったら、彼も喜ぶだろうか?赤ちゃんの誕生を楽しみにしてくれるだろうか?

しかし、その期待はすぐに打ち砕かれた。

隼人からの返信はたった三文字だった。「堕ろせ」

瑠璃の心はまるで鋭利な刃物で切り裂かれたように痛み、その痛みが癒える間もなく、隼人から再びメッセージが届いた。「瑠璃、警告するぞ。この世で蛍だけが俺の子供を産む資格があるんだ。お前みたいな恥知らずな女は、さっさと離婚届にサインして遠くに消えろ!離婚しないなら、その子は俺が直接始末する」

瑠璃の血液が一瞬にして凍りついた。これほど冷酷で無情な言葉は、彼女のプライドと尊厳を完全に踏みにじり、痛みをもたらした。しかし、同時に彼女はようやく悟った。この男は、自分が盲目に愛し続ける価値などないのだと。

……

一方、蛍は、つい先ほど操作したメッセージの履歴をすべて削除していた。

全てが終わった後も、手のひらには冷たい汗がにじんでいた。

痕跡を残すことが怖かった。そして、隼人に真実が知られることが何よりも怖かった。

二年前、彼女が瑠璃の部屋を探していたとき、彼女の日記帳と、その中に挟まれていたしおりを見つけた。そのしおりには、隼人のサインがあり、日付は十年前のものだった。

十年前、隼人はすでに瑠璃と出会っており、純粋でロマンチックな約束を交わしていたのだ。

しかし、当時の瑠璃は今の名前を名乗っておらず、隼人も彼女がその時の少女であることに気づかなかった。これが、彼女が利用できる隙間となった。

ガラスの自動ドアが突然「カチャン」と音を立てて開き、隼人の姿が現れた。彼のデスクに座っていた蛍は顔色を変え、慌てて立ち上がり、彼のスマホを元の場所に戻して、まるで何事もなかったかのように振る舞った。

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