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第0017話

隼人の冷たい非難が鋭く降りかかり、瑠璃はその言葉に皮肉を感じざるを得なかった。

「目黒社長はもうご存知じゃないですか?」

瑠璃のその言葉がさらに隼人を苛立たせた。彼は彼女の顎を強く掴み、その冷たい瞳に怒りを宿らせた。

「だから昔の男に会いに行ったのか?」

昔の男?彼が言っているのは若年のことだろう。

若年は隼人と同じクラスで、二人とも瑠璃より2年上の先輩だった。

大学の卒業式で若年が瑠璃に告白したことがあり、そのことで周囲は二人が付き合っていたと誤解していた。

瑠璃は知らなかったが、隼人もその噂を信じていたようだ。

「俺がいつかお前を捨てたとしても、他の男と関わることは許さない。俺が使い古した女を誰が欲しがると思っているんだ?」

使い古した女。

彼女をそんなふうに呼ぶなんて。

瑠璃の心は鋭く痛み、どこからか力を振り絞り、隼人を力強く押し返した。

「目黒隼人、あなたが不倫をしてるからといって、私も同じようにするだと思っているの?私の男はあなたしかいないわ!さっきの言葉は私を侮辱するだけでなく、自分をも侮辱しているのよ!」

その言葉を残し、瑠璃は急いで家の中に駆け込んだ。

隼人はその場に立ち尽くし、突然感じた空虚さに一瞬戸惑いを覚えた。瑠璃の背中を見つめ、眉を少しひそめた。月明かりに照らされた彼の表情は、はっきりと見えなかった。

......

瑠璃はいつも通り出社したが、すぐに人事部に呼び出された。

上司から手渡されたのは退職通知だった。瑠璃は理由を尋ねたが、上司は冷たく一言、「うちは手癖の悪い人は雇わない」と告げた。

彼女はすぐに察した。「ブレスレットを盗んだ」という件がネットで広まった結果だったのだ。

潔白を証明する証拠があったが、それは隼人によって消されていた。

今では、彼女は皆から「泥棒」と見なされている。

屈辱と怒りで胸がいっぱいだったが、どうしようもなかった。

景市では、隼人の一言で全てが彼の思い通りになる。だが、彼は決して彼女を助けない。むしろ、彼女が消えることを望んでいるのだ。

瑠璃は履歴書を持って何社か面接に行ったが、どの会社も彼女を即座に拒絶した。

体調が悪く、小腹に鈍い痛みが走った。瑠璃は心配になり、病院で検査を受けることにした。

待合室で妊娠検査の結果を待っている間、夫や家族に付き添われた妊婦たちを見て、心の中で羨ましさを感じた。

隼人が自分を妊娠検査に連れて行ってくれる日が来るとは、夢にも思わなかった。

そんな日は、この先一生来ないだろう。

「瑠璃?」突然、蛍の声が聞こえた。

瑠璃は顔を上げ、ゆったりとした服を着て優雅に微笑む蛍が目に入った。

「妊娠検査?隼人は一緒に来なかったの?」

蛍は無邪気に微笑んでいた。瑠璃の心は強く締め付けられたが、決して負けたくなかった。

「隼人もあなたと一緒に来てないでしょ。でもいずれ、あなたのお腹の子が誰の子かを知ることになるでしょうね」

蛍の表情が一瞬曇ったが、すぐに得意げな笑みを浮かべた。

「隼人は今、私の検査結果を取りに行ってくれているのよ」

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