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第0016話

隼人は無表情で動画を見終えると、冷たい声で「どこで手に入れた?』と問い詰めた。

瑠璃はその質問に皮肉な笑みを浮かべた。「動画がどこから来たかなんて重要なの?重要なのは、今あなたが目の当たりにした真実じゃない?」

「真実?」隼人はふと鋭い瞳を光らせ、動画を手でスワイプして消去し、アルバムにあるバックアップまでも全て削除した。

その行動に瑠璃は驚愕し、感情が抑えきれず、慌ててスマホを奪い返そうとしたが、既に遅かった。ゴミ箱にある動画データも全て消されてしまった。

「隼人、どうしてそんなことをするの!ネットで私が非難されている中、これが唯一の証拠だったのに!」

瑠璃は感情を爆発させた。

しかし、隼人は冷笑を浮かべ、「お前の潔白なんて俺に何の関係がある?蛍が喜ぶなら、俺には何だってどうでもいいんだよ」

彼の言葉は瑠璃を黙らせた。

彼女の潔白や生死など、彼には一切関係なかったのだ。

彼が気にしているのは蛍であり、その女がどれほど最低なことをしても、彼にとっては全て受け入れられる。

なぜなら彼は蛍を愛しているから、その愛は盲目で、無原則だった。

瑠璃は急に静かになり、すぐそばに立つ隼人を見つめた。涙で目が霞みそうになる。「隼人、もしも私がネットで攻撃されて死んでしまっても、何とも思わないの?」

隼人は顔を上げることもせず、「それで、お前は死んだのか?」

彼の冷酷な返答は、瑠璃の心に鋭い刃を突き刺し、骨まで達する痛みがじわじわと広がっていった。

瑠璃は拳を握りしめ、泣き崩れそうになりながら、目の前の男の完璧な容貌が涙でぼやけていくのを感じた。「隼人、もし本当にその日が来たら、あなたが今のように無関心でいられたらいいね」

そう言い残し、瑠璃は振り返ることなく立ち去った。涙が止めどなく流れ落ちた。

12年間の片思いが無駄だったことは分かっていたが、これほどまでにひどい男を自分が愛していたことが信じられなかった。

瑠璃はビルを飛び出し、気がつけば雨が降り始めていた。朦朧とした意識の中で前方の車に気づかないまま歩いていた。

「キーッ!」という急ブレーキ音に驚いて顔を上げると、雨と涙で視界がぼやけた中、車から急いで降りてくる男の姿が見えた。しかし、誰なのか確認する間もなく、瑠璃は意識を失った。

......

瑠璃が目を覚ますと、辺りはすっかり暗くなっていた。

周囲を見回すと、落ち着いた雰囲気のあるマンションの一室だったが、彼女にとっては見知らぬ場所だった。

身を起こしたその時、ドアの向こうから背が高く、精悍な顔立ちの男が入ってきた。

数秒間見つめた後、瑠璃は信じられないような表情で口を開いた。「西園寺先輩……?」

西園寺若年は穏やかな笑みを浮かべた。「久しぶりだね、瑠璃ちゃん」

確かに久しぶりだった。若年が大学を卒業してから、彼に会うことはなかった。

「さっき、僕の在宅医者を呼んで診てもらったけど、特に問題はないってさ」そう言いながら、彼は親切に水を差し出した。

瑠璃は少し申し訳なさそうに笑った。「ごめんなさい、先輩。ご迷惑をおかけたね」

「こんなの迷惑なんて言わないよ。瑠璃ちゃんが無事でよかった」若年の優しい言葉に、瑠璃の心は温かさを感じた。

彼の言葉に、隼人の冷たい言葉を思い出し、再び胸が痛んだ。

これが、報われない片思いの結末なのかと。

時間も遅くなり、瑠璃は帰るつもりだったが、若年は事前に高級ホテルからの出前を頼んでおり、テーブルには豪華な料理が並んでいた。

瑠璃は彼の厚意を無駄にしたくなかったので、一緒に夕食をとることにした。食事が終わった後、若年は瑠璃を家まで送ると言い張った。

車が別荘の前に停まった時、若年がふいに口を開いた。「医者が言ってたんだけど、君、妊娠してるんだって?目黒隼人は知っているのか?」

瑠璃は車を降りようとして一瞬動作を止め、振り返った。月光が若年の温かな顔を照らし、その目には優しさが溢れていた。

「もちろん知ってるわ。夫がこのことを知らないはずがないでしょう」瑠璃は無理に笑顔を作りながら、車を降りた。「ありがとう、先輩。今度は私がご馳走するわ」

若年は微笑んで頷いた。「楽しみにしてるよ、瑠璃ちゃんからの連絡を待ってる」

「うん」瑠璃は笑顔で手を振り、若年が車を発進させるのを見送ると、振り返って家に入った。

別荘に入った途端、冷たい手が彼女の腕を強く引っ張り、勢いよく引き寄せられた。

瑠璃は鼻が男性の広い胸板にぶつかり、上から隼人の冷酷な声が降りかかってきた。「瑠璃、お前は俺が思ってた以上に下劣だな」

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