共有

第0015話

突然の親密な行動に、瑠璃の心臓は激しく打ち、頬もほんのり赤らんだ。

隼人を見上げた。彼の横顔は毅然として美しかったが、その表情は冷淡だった。

「おじいさまがいらっしゃる」

彼は冷たく言い放ち、瑠璃はすぐにその意図を悟った。

彼が求めているのは、目黒の爺さんの前で偽りの愛情を演じることだけだった。彼女の心は一瞬で冷え込み、皮肉を感じた。

食卓には他に外部の人間はいなかった。唯一の例外が蛍だった。

目黒の爺さんは穏やかで優しい表情をしていたが、なぜか瑠璃にはどこかで見たことがあるような気がした。

驚いたことに、隼人は目黒の爺さんを満足させるために、蛍を無視してまで、瑠璃に優しく接していた。

彼は彼女に料理を取ってあげるだけでなく、時折エビの殻をむいて渡すまでした。さらに驚いたことに、温かい微笑みさえ見せたのだった。これは瑠璃が初めて見る光景だった。

瑠璃は思わず蛍を見た。彼女は無理に笑顔を作っていたが、その顔には不快感が滲み出ていた。

まるで夢を見ているようだったが、瑠璃はこの夢がすぐに終わることを理解していた。

食事が終わると、隼人は瑠璃の手を取り、車庫に向かって歩き始めた。その手の温かさが彼女の心の奥まで届き、頬が再び熱を帯びた。

この瞬間が永遠に続けばいいのに……。

だが、現実は残酷だった。

車の近くに来ると、隼人は突然彼女の手を冷たく振り払い、「自分で行け」と言い放った。

その急変した態度に、瑠璃は一瞬戸惑いを覚えた。

隼人が、後から来た蛍のために車のドアを開け、優しく彼女を乗せる姿を瑠璃は目にした。車のテールが風を切って消え、車体はすぐに視界から消えた。

瑠璃は人通りのない通りに立ち尽くし、秋の冷たい風が心まで冷やし、先ほどの偽りの温もりを一瞬で吹き飛ばした。

......

その夜も、隼人は帰ってこなかった。

愛する男が他の女を抱いているのを思い浮かべながら、瑠璃は自分の病状について調べ続け、胸が裂けるような痛みを感じていた。

腫瘍の位置が悪く、手術には大きなリスクが伴う。たとえ子供を諦めて命を救う選択をしても、危険にさらされる可能性が高い。

もしそうなら、このリスクを冒してでも、この隼人との間にできた唯一の子供を産みたいと彼女は思った。

翌朝早く、瑠璃は病院に行き、再検査を受けた。結果が出ると、運命を受け入れるしかなかった。

検査結果を見つめる瑠璃の目には、涙が静かに滲んだ。

「隼人……せめて一生あなたに付き纏うと思っていた。たとえ私を嫌って、軽蔑しても。でも、私の一生はこんなにも短いなんて……」

瑠璃がぼんやりと街を歩いていると、突然、見知らぬ番号からメッセージが届いた。それを開いてみると、動画が送られてきた。

その内容は、昨日彼女がブレスレットを盗んだと誤解された場面だった。

そして、動画の中では、蛍がそのブレスレットを彼女のポケットにこっそり入れる瞬間がはっきりと映し出されていたのだ。

瑠璃はこの動画を送ってきた人物が誰なのか分からなかったが、すぐに「ありがとう」と返信した。

あまり考えず、すぐに車を呼び、隼人の会社へ向かった。

命が長くないとしても、蛍のような卑劣な女が隼人を欺くのを許せなかった。

彼女はすぐに目黒財閥のビルに向かい、自分の身分を明かした。受付の女性は彼女を一瞥し、妙な目つきをしていた。

瑠璃がエレベーターに向かう途中、背後から話し声が聞こえた。スマホでツイッターを開き、昨日の出来事がネット上で話題になっていることに気づいた。

コメントの多くは、彼女を非難する内容だった。手癖が悪く、醜いアヒルの子で、たとえ隼人のような素晴らしい男と結婚しても、その本質はゲスだというものだった。

瑠璃はスマホをしっかりと握り、隼人のオフィスに直行した。彼はちょうど会議を終えたばかりで、瑠璃が来るのを見て、冷たい目を向けた。「何しに来た?自分がどれだけ有名になったか分かっているのか?」

彼の言葉は、昨日の出来事を指していた。

瑠璃はさっき匿名で送られてきた動画を再生し、スマホを隼人に突きつけた。「これを見て、誰が本当の泥棒かよく確認して」

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status