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第0014話

瑠璃が連れて行かれそうになったその瞬間、品のある優雅な貴婦人が突然、その裕福な女性のそばに近づき、低い声で何かを囁いた。

裕福な女性の顔色が変わり、驚きの表情で瑠璃を見つめた後、「これはただの誤解だったわ」と慌てて言い直した。

瑠璃は何が起こっているのか理解できず、視線を上げてその貴婦人と目が合ったが、貴婦人は彼女を冷たく睨み返してきた。

その冷ややかな視線に、瑠璃は不安と戸惑いを感じたが、その時、再び蛍が近づいてきた。

「瑠璃、こちらは隼人のお母様よ。もう心配いらないわ、警察には行かなくていい。でも、約束して。もう二度とこんな恥ずかしいことをしないで」

蛍は心配するふりをして優しく言った。瑠璃が何かを言おうとしたが、隼人の母親は不満そうに彼女を一瞥し、無言でその場を去った。

蛍は微笑みながらその後を追い、まるで親密で愛情深い嫁姑関係であるかのように、隼人の母親の隣を歩いた。

周囲からはささやき声や笑い声が聞こえてきた。

目黒家の若奥様が、田舎臭く、盗みの疑いまでかけられるような女性であることは、まさに滑稽なことだった。

周囲の疑いの目にさらされ、瑠璃は無念さとやりきれなさで胸がいっぱいになり、屋内へと入った。そこでようやく隼人の姿を見つけた。

しかし、彼は彼女のみすぼらしい姿を目にすると、即座に不快感を露わにした。

「今日は母さんの誕生日だというのに、遅刻した上にそんな格好をして、さらに盗みまで働くとは、お前は死にたいのか?」

彼の非難の言葉は冷たく、氷のように刺さった。

瑠璃は苦々しく唇を引きつらせた。昨夜、彼の粗暴な扱いのせいで病院に運ばれ、危うく子供を失うところだった。

病院で自分の体内に腫瘍があることを知らされたが、それを十分に消化する前に急いでここに駆けつけた。そして、玄関を入った途端にあの事件に巻き込まれたため、身だしなみを整える暇もなかったのだ。

瑠璃は目を上げ、冷ややかな隼人の顔を見つめた。「隼人、私は誰の物も盗んでいないの。これは蛍が……」

「お前の手癖が悪いのを蛍のせいにする気か?お前のポケットから見つかったブレスレットを蛍のせいにするつもりか?本当に見苦しい」

瑠璃の心は言葉にできないほどの痛みで押しつぶされ、隼人が背を向けて歩き去るのを見ながら、その苦しみを飲み込み、2階へと上がった。

ここは隼人が実家で使用する部屋で、彼女が入るのは初めてだった。クローゼットには数着の高級ドレスが揃っており、すべてが世界的に有名なブランド品だった。

瑠璃が着替えようとしていると、蛍が部屋に入ってきた。

彼女は瑠璃のダサい姿を見て、にやりと笑った。「瑠璃、あんたみたいな野良猫が高貴なドレスを着ても、王妃には見えないわね」

瑠璃は冷たく笑い返した。「でも実際には、私は王妃なのよ。あなたはただの恥知らずな愛人にすぎないわ」

「この……!」蛍は顔を真っ赤にして怒りを爆発させた。「瑠璃、あまり調子に乗らないで!隼人はすぐに離婚するわ!それに、あんたのお腹の中のものも、隼人が全て消し去る!」

「誰が本当に隼人の子を妊娠しているのか、あなたが一番よく知ってるはずよ」瑠璃は憎しみのこもった目で蛍を見つめ、「あのブレスレット、あなたが仕組んだことに間違いないでしょう?」

「ふん、そうだとしたらどうするの?誰があんたを信じるっていうの?」蛍はもはや隠す気もなく、勝ち誇ったように笑った。「いずれ、目黒家の若奥様は私になるのよ!」

蛍が部屋を出た後、瑠璃は急いでシャワーを浴び、シャネルの名門スタイルのドレスに着替え、淡いメイクを施した。

鏡に映る彼女は、澄んだ目と美しい顔、上品で優雅な雰囲気を漂わせていた。しかし、この顔がどんなに魅力的であろうと、隼人は決して見向きもしないだろう。

そして、自分の体の状況を思い出すと、瑠璃は平らなお腹をそっと撫でながら、悲しげに微笑んだ。

もしかしたら、律子が言った通り、彼女の隼人に対する愛も長くは続かないかもしれない。なぜなら、彼女の命ももうすぐ終わりを迎えるかもしれないからだ。

その時、部屋のドアが開き、隼人が不機嫌そうに急かしてきた。瑠璃は急いでその悲しみを隠し、彼に向かって優しく微笑んだ。

彼の深い瞳には一瞬、驚きが走り、瑠璃の隣に歩み寄り、隼人が突然彼女の腰を優しく抱き寄せ、瑠璃は驚きを隠せなかった。

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