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第0002話

翌朝、瑠璃は夢から目を覚ました。

完全に覚醒していないまま、目の前に避妊薬の箱が投げられた。

「これを飲んでおけ」

瑠璃が顔を上げると、隼人がすでに身支度を整え、昨夜とはまるで別人のように冷淡で威厳ある姿が目に入った。

避妊薬を見つめながら、瑠璃の心は震え始めた。

彼女はすでに妊娠しており、避妊薬を飲むことはできない、それは胎児に危険を及ぼすからだ。

「まだ飲まないのか?俺が飲ませてやろうか?」

瑠璃が動かないのを見て、隼人は苛立ちを露わにした。

「瑠璃、俺の子供を産むなんて考えるな。お前のような恥知らずに、俺の子供を産む資格なんてない!」

彼の言葉は一言一言が瑠璃の心に突き刺さった。

真夏のはずなのに、まるで冷気が一瞬にして瑠璃の心を襲ったようだった。

子供が二人の関係を修復するきっかけになると信じていたのに、それはただの幻想に過ぎなかったんだ。

彼女はもう、この男に自分が彼の子供を妊娠していることを告げる勇気すらなかった。

隼人の冷たい視線が見張る中、瑠璃は仕方なく一錠の薬を手に取り、飲み込むふりをしたが、実際には薬を舌の下に隠した。

瑠璃は少し不安だったが、ちょうどその時、隼人のスマホが鳴った。

隼人は画面を確認すると、ためらわずに電話に出た。すぐに眉をひそめた。

「何?蛍が自殺した?すぐに向かう!」

瑠璃はその言葉に驚き、完全に目が覚めた。蛍姉さんが自殺した?

彼女は体調を気にせず、急いで身支度を整え、服を着替えて階下へ急いだ。

隼人が車を出そうとしているところ、瑠璃は助手席のドアを開けた。

「その汚い手を引っ込めろ、誰が乗っていいと言った?」

隼人の冷酷な言葉に、瑠璃は手を引っ込め、埃のように卑屈な気持ちで彼を見つめた。

「隼人、私もお姉さんが心配なの。一緒に行かせて」

「お前が心配だと?蛍が死んだら、一番喜ぶのはお前だろう?」

隼人は冷たく彼女を見下し、そのままアクセルを踏み込んだ。

瑠璃は真っ青な顔でその場に立ち尽くし、数秒後、すぐにタクシーを呼んで隼人の車を追った。

市内の病院に着くと、瑠璃は隼人とともに病室に向かった。

隼人が心配そうに病床に歩み寄った。その時、蛍はベッドに座っており、顔は蒼白で、涙に濡れた目は非常に悲しげだった。

幸い、命に別状はなかったことに瑠璃は胸を撫で下ろした。

隼人が来ると、蛍は表情を曇らせ、悲しげに彼の胸に寄り添った。

「隼人……」

彼女は親しげに隼人の名を呼び、彼の胸で悲しみを訴えた。

その光景は、まるで隼人と蛍が本当の夫婦であり、瑠璃がただの部外者のようだった。

瑠璃は心の痛みをこらえ、歩を進めた。

「蛍姉さん……」

「瑠璃、この恩知らずが!よくも蛍に会いに来られたな!」

瑠璃が病室に入ろうとした瞬間、背後で怒鳴り声が響いた。

それは蛍の母親、華の声だった。

瑠璃が振り向くと、突然、重い平手打ちが彼女の顔に飛んできた。

「この恥知らずめ!四宮家が親切にあんたを引き取り、食べ物を与え、衣服を与えたのに、蛍の婚約者を奪うなんてね!」

華が言っているのは、三ヶ月前に瑠璃が隼人と一夜を過ごしたことだが、彼女の仕業ではなかった。

瑠璃が弁明しようとしたが、またもう一方の頬に平手打ちが飛んできた。

その一撃で彼女の口から血が滲み、目の前に星が散り、ほとんど倒れかけた。その瞬間、瑠璃の耳には蛍の父親、弥助の怒りの声が響いた。

「瑠璃、今日からお前は四宮家の人間じゃない。俺たちの家にはお前のような恥知らずで卑怯な人間はいない!」

その言葉の後、弥助は瑠璃を蹴り飛ばした。

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