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第0005話

瑠璃が突然現れ、そんな言葉を口にしたことで、病室の中にいた三人は一瞬、言葉を失った。

数秒後、蛍の顔色が一変し、かつての優雅で温和な仮面は崩れ去り、険悪な表情が浮かんだ。「四宮瑠璃、どうしてまだここにいるの?」

瑠璃は赤い目をしながら、冷笑して答えた。「ここにいるのは、ちょうどあなたたちの計画に協力するためよ」

蛍はその意味を悟り、顔が青ざめた。「私たちの話を盗み聞きしたのね!」

瑠璃は冷ややかに言った。「そうよ。聞かなければ、私の『良いお姉さん』がこんなに恥知らずな女だとは思わなかったわ」

「この小娘が、蛍をそんな風に罵るなんて、死にたいのか!」華は激怒し、手を伸ばして再び瑠璃を打とうとした。

「お母さん、こんな田舎臭い女に怒ることなんてないわよ!」蛍は冷笑し、瑠璃をじっと見つめたまま、落ち着いた声で続けた。「可愛い妹よ、姉妹としての情を思い出して、隼人との離婚に素直に応じたほうがいいわ。そうしないと、どうなるか分からないわよ」

瑠璃は、かつて守ろうとした家族の絆に対する最後の希望を完全に捨てた。それはただの偽りだった。

彼女は蛍を見つめ、さらに冷静に言った。「今すぐ私にお願いすれば、考えてあげてもいいわよ」

「何ですって?」蛍は顔色を一変させ、まるで愚かな者を見るかのように瑠璃を見つめた。

「この小娘が、正気じゃないわ!」華はさらに激怒して叫んだ。

その母娘の表情を見て、瑠璃は逆に笑い、「そうよ、私は正気じゃないわ。だから、私は一生隼人を手放さないし、目黒家の若奥様の座も譲らないわ!」

「瑠璃、あんたなんかにその座を渡すつもりはないわ!」蛍は怒りに任せて叫んだ。「絶対に勝たせたりしない!」

「もう勝ったわよ。少なくとも今、景市中の人々が目黒家の若奥様が四宮瑠璃だと知っているわ。あなたじゃないの」

そう言って、瑠璃は振り返って病室を出て行った。後ろから蛍の怒り狂った罵声が聞こえたが、彼女はそれを全く無視した。

瑠璃は病院を出て、婦人科専門の病院へ向かった。

昨夜、隼人にされたことや、先ほどの転倒が胎児に影響を与えていないか心配だったからだ。

待合室には多くの妊婦がいて、ほとんどが夫や家族と一緒にいた。その人たちの幸せそうな笑顔を見て、瑠璃は自分が笑い者のように感じた。

彼女は愛する男性の子供を宿しているが、その男性は別の女性を愛しているのだ。

こんなはずじゃなかった。あの時、彼は彼女の手を握りしめてこう言った。「大きくなったら、結婚するよ」と。

彼は確かに彼女と結婚したが、それは無理やり、嫌々だった。

胎児には問題がないと診断され、瑠璃はほっと一息ついた。

彼女は自宅に戻ったが、入るとすぐに玄関から重い扉の音が聞こえた。

振り返ると、隼人が帰ってきた。

彼の端正な顔立ちはそのままだったが、鋭い眉と目には激しい怒りが漂っていた。

「また蛍のところに行ったのか?」隼人の声は冷たかった。

瑠璃は、蛍が彼に告げ口をしたのだろうと察したが、心にやましいところはなかった。「ええ、でも……」

「瑠璃、お前は本当に悪女だな!」

隼人の怒りの言葉は、ガラスの破片のように瑠璃の心に突き刺さり、見えない痛みが一瞬で広がった。

彼女は無表情で、彼が自分に近づいてくるのを見つめた。彼の鋭い目には冷たい怒りが渦巻いていた。

「蛍に『たとえ死んでも俺にしがみついて、蛍が目黒家の門をくぐることはない』と言ったのか?」

瑠璃の顔色は一気に青ざめた。彼女はそんなことを言っていなかった。

彼女は説明しようとしたが、隼人は激怒し、彼女の手首を乱暴に掴むと、力任せにソファに放り投げた。

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