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第3話

胸の中から密集した痛みが外に向かって広がっていくのを感じた。

視界がぼやけ、突然意識を失った。

再び目を覚ました。

目に入ったのは刺すような照明の光で、空気には鼻を刺す消毒液の匂いが漂っていた。

「瑞穂、目が覚めたのね」

親友の美代が私のそばにいて、私を起き上がらせてくれた。

「体の調子はどう?」

美代の声に、一瞬のためらいがあったことを敏感に感じ取った。

「私、どうしたの?」

美代は複雑な表情で私を見つめ、深いため息をついた。

「妊娠しているのよ」

妊娠した?

神様は本当にいたずらがお好きなようで。

景久の浮気を知り、離婚しようとしている時に、彼の子供を身ごもっているなんて。

「瑞穂、景久と何があったの?」

「路上で倒れてたのよ、私がたまたま会いに行かなかったら、どうなっていたか分からないわ」

私はぼんやりと頭を上げ、ここ数日の出来事が脳裏に浮かんだ。

「彼が浮気したの」

美代は急に立ち上がり、怒りに震えて叫んだ。

「あの野郎! 皮を剥いでやる!」

私は彼女の手を引いた。

「美代、もういいよ。彼とは関わりたくない」

「一旦、家に帰りたい」

7、

私の書類と仕事関係のファイルはまだ彼の別荘にある。

きっぱりと終わらせるなら、徹底的にやらないと。

この子は絶対に産めない。

時間を見たら、景久はまだ会社にいるはずだ。

ちょうどいい、荷物をまとめて引っ越そう。

家に戻ると。

既に誰かが掃除をしていて、綺麗に整えられていた。

景久がプロポーズした時、彼はこの家を購入し、婚家とした。

彼は当時「必ず幸せにする」と言っていた。

この馴染みのある空間をぼんやりと見つめていると、突然、長く伸びる声が耳に届いた。

それは喜びとも苦しみとも取れる、しかし聞き覚えのある女性の悲鳴だった。

上の寝室から聞こえてくる。

心臓の鼓動がはっきりと聞こえ、一拍ごとに大きくなる。

体の中で何かが爆発するような感覚が広がり、巨大な恐怖が私を包み込んだ。

私は硬直したまま、一歩一歩階段を上がっていった。

見慣れたベッドの上には、見覚えのある二つの人影があった。

「ここでやるの、刺激的でしょ?」

遥が景久の腕に絡みつき、媚びるように笑っていた。

「朝藤さん、私を見て。私の方がいい?それともあの人?」

天井のライトが瞬くと、欲望にまみれた景久の顔が照らし出された。

遥は彼の上にまたがり、最後に彼の唇に何度もキスをした。

「私の方が彼女より上手でしょ?」

その瞬間、胃から込み上げてくる激しい吐き気を感じた。

私はドア枠に手をついて嘔吐しそうになった。

気がつくと、部屋は死のような静寂に包まれていた。

顔を上げると、景久の目とちょうど視線が合った。

8、

「瑞穂……」

景久の目には、少しずつ焦りの色が浮かび上がっていくのがはっきりと見えた。

そして、その奥にはかすかな快感さえも見えた。

私は無表情でスマートフォンを取り出し、この場面を撮影した。

「瑞穂、何をする!」

遥は叫びながら起き上がった。

床に落ちていた服を慌てて着込み、私に向かって突進してきた。

「写真を消して!」

彼女の匂いが近づいてくるとともに、胸の中の感情が激しくなり、私は彼女の顔を平手打ちした。

「近寄らないで!」

「さもないと、この写真をばら撒くわよ」

遥は顔を押さえ、怒りに満ちた目で私を睨んでいたが、もう手を出すことはなかった。

「瑞穂、その写真を消してくれ」

景久は暗い瞳でじっと私を見つめていた。

私は冷たく笑った。

「あんたに命令される筋合いはないわ」

「3年前ここで景久が私に言ったこと、覚えてる?」

「『君のことは一生裏切らない』って」

景久の顔は青ざめ、唇が震えていたが、何も言えなかった。

私はその顔を見つめながら、言い知れない悲しみが胸に押し寄せてきた。

人を愛するということは、信仰を生み出すようなものだ。

いつ崩れ落ちてもおかしくない神を崇め続ける。

信仰が崩れ去ったとき、自分に残されるものは、ただの荒れ果てた虚無だけだった。

遥が私に歩み寄ってきた。

「瑞穂さん、ごめんなさい」

「酔っていたの、だからこんなことになるなんて思わなかった」

「ただ…ただ、感情が抑えきれなくて……」

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