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第8話

「でも、私はもうあんたを愛せない」

彼のまつ毛がかすかに震えたが、まるで何も聞こえていないように、ただその場に立ち、無言で私を見つめていた。

「瑞穂は十二年間も僕を愛してくれた」

私は皮肉っぽく笑った。

「それで?」

景久の声は震え始めた。

「お願いだから、僕を捨てないで」

「嫌なことは全部忘れて、もう一度やり直そう。ね?」

私は彼の目をじっと見つめた。

「補聴器をつけなきゃいけない運命を与えただけでなく」

「今度は命を奪うつもり?」

景久の目に一瞬恐怖が走った。

彼は震えながら膝をつき、私の手を握りしめた。

「それはどういう意味?」

私は力強く手を引き抜き、ティッシュで手を拭った。

彼の蒼白な顔など気にせず、私は冷淡に言った。

「もう二度と会いたくないの」

「でももし、あんたがどうしても私を手放せないなら、この命をあげるしかないわ」

私は空を見上げた。

「そうすれば、母さんのもとへ行けるよ」

「彼女は唯一、私を愛してくれた人だから」

17、

その日以来、私は景久と再び会うことはなかった。

私は彼から送られてきた手紙や、復縁を求める音声メッセージを整理し、全て遥に送りつけた。

彼女がかつて私を挑発してきたのと同じように。

私は彼女を幸せにさせるつもりなど、初めからなかった。

彼女は私の婚姻を壊した。

私が愛情への憧れを壊した。

さらに、私の子供も奪った。

ただ、私が思いもしなかったのは、それが最後の藁となることだった。

翌日の昼。

私は買い物に行こうと階段を下りていた。

すると、遥がナイフを持って、私に向かって突進してきた。

「瑞穂!」

目の前が突然真っ暗になり、誰かが私を抱きしめた。

「ザクッ」

ナイフが肉に突き刺さる音、そして聞き覚えのある低い呻き声がした。

ようやく警備員が駆け寄り、呆然と立ち尽くす遥を取り押さえた。

周囲は一瞬で混乱に包まれた。

私は驚愕のあまり、地面に倒れ込んだ景久を見つめ、何もできなかった。

彼の腹部を押さえる指の間から血が滲み出ていた。

彼は私の名前を呼ぼうとしたが、痛みのあまり声にならなかった。

徐々に、彼の瞳は焦点を失い、手が力なく垂れた。

18、

景久は重傷を負い、遥は殺人未遂で10年の刑を言い渡された。

彼女が逮捕され、収監されたその日、私
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