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狂った恋愛脳の幼なじみ
狂った恋愛脳の幼なじみ
著者: 池田海音

第1話

「ねえ、直樹の連絡先を教えてくれない?」

 学校一の美少女が、私の腕を軽くつついてきた。

 少し離れた教室の窓際に、ぼんやりと人影が映っている。

 それは、17歳の松本直樹だった。

 突然、心臓が大きく跳ね上がり、私は思わず胸に手を当てて深呼吸をした。

 「どうしたの?」

 私をつついたのは、隣の席にいる転校生の白石由美だった。彼女は来てまだ一週間なのに、すでに学校一の美少女と呼ばれていた。

 前世、彼女も自信満々に軽やかに言っていた。「彼の連絡先を教えて。1週間で彼を落としてみせるから」

 その時、私は彼女が冗談を言っているのだと思った。

 しかし、その夜、私は彼女が机の上に座り、直樹とキスしている光景を目撃してしまった。

 本来机の上に置かれていたはずの石膏像は、床に落ちて粉々に砕け散っていた。

 私は生まれ変わった!

 すべてがまだ起こっていない過去に戻ってきたのだ。

 私は掌を強く爪で押し、声の震えを必死に抑えた。

 「いいよ、彼のLineを教えてあげる」

 前世で彼女にLineを教えなかったために、恨まれていたことを思い出した。

 簡単に操作を終え、私はスマホを置いた。「できたよ。これから勉強するから、特に用事がなければ帰ってね」

 由美は直樹のLineを追加しながら、私に尋ねてきた。「また勉強?それより、どうして私が彼を落とそうとしてるか気にならないの?あなた、彼のことを密かに好きなんでしょ?」

 私は胸がぎゅっと締め付けられるような気持ちになった。

 17歳のとき、私は2つの大きな過ちを犯した。

 1つ目は、密かに直樹に恋をしていたのに、その気持ちを彼に伝えられなかったこと。

 2つ目は、彼と由美が付き合っていることを密告し、彼を海外に追いやってしまったこと。

 その結果、彼は私を8年間も恨み続けた。

 復讐のために、私を破滅させることすらためらわなかった。

 あの屈辱的な夜を思い出すと、今でも吐き気がする。

 「違う、あなたの勘違いよ。私は一度も彼のことを好きになったことなんてない」

 私は冷静に顔を上げ、由美の目を真っ直ぐ見つめ、はっきりと告げた。

 由美は一瞬、私の真剣な様子に驚いたが、すぐに悪戯っぽく口元を歪めた。

 「それを聞いて安心したわ。本当はどうやって直樹と私の関係を話そうか悩んでたの。あなたを刺激しちゃうんじゃないかと思って」

 前世でも、由美はこんな風に私に自分の優位を誇示してきた。

 由美はとても美しく、スラリとした体型に、透き通るような白い肌を持っていた。メイクをしていなくても、その顔立ちは人目を引くほど際立っていた。

 私たちのような地味な学生の中で、彼女はまさに一輪の鮮やかなバラのような存在だった。

 由美は恋多き女で、学校で少しでもカッコいい男の子とは、ほとんど付き合ったことがあった。

 彼女の性格もその美貌と同じく、情熱的で目立ちたがりだった。

 他の生徒が試験勉強に必死になっているとき、由美はタバコを吸い、お酒を飲み、クラブに行き、授業をサボっていた。いわゆる「良い子」ではなかった。

 でも、そんな彼女は、真面目な人たちにはかえって強い魅力を放っていた。

 直樹も、その一人だった。

 私は前世の最後の瞬間を思い出す。

 直樹の白いシャツの袖を掴み、私は泣きながら訴えた。「直樹、こんなことはやめて。どんなに私を恨んでいても、こんな復讐は間違ってる」

 袖がはらりと落ち、私の腕にはタバコやヘアアイロンでつけられた、消えることのない傷跡が残っていた。

 直樹は私を見下ろし、冷笑を浮かべた。

 「それで、どうしたいんだ?お前があの時余計なことをしなければ、由美は他の男と結婚せず、あんな闇の診療所で死ぬこともなかった。

 お前が由美を殺したんだ。それでよく、助けを求められるな。

 千葉菜乃、お前は本当に愚かだな」

 そう、前世で私は直樹と由美の交際を彼の両親に告げ口した。

 その結果、直樹は無理やり海外に行かされ、由美は恋愛に溺れて美術試験に失敗し、卒業後はバイク乗りの男と付き合うようになった。

 未婚のまま妊娠した彼女は、彼氏に逃げられ、親にも見捨てられた。

 最終的に、彼女は闇の診療所で中絶しようとして命を落とした。

 直樹はずっと思っていた。もし私があの時、彼の両親に言わなければ、彼が国外に追いやられることもなく、由美も死なずに済んだのだと。

 すべては私が引き起こしたことだった。

 私は笑顔で彼女に言った。「よかったね。二人がいつまでも幸せでいられるように」

 由美は驚いたように一瞬私を見たが、何も言わなかった。

 時が流れ、直樹と由美はひそかに恋愛を続けていた。

 彼らは他のカップルと同じように、授業を抜け出して映画を見に行ったり、派手なピアスを開けたり、観覧車の上でキスをしたりしていた。

 街中をバイクで飛ばすこともあった。

 由美は、今まで直樹が知らなかった自由な世界を彼に教えていたのだ。

 彼らは学生らしからぬ生活を送っていた。きっと、自分たちがまだ学生であることを忘れていたのだろう。

 私はそのすべてをただ傍観していた。

 もう二度と、彼らのことを直樹の両親に言いつけるような愚かなことはしないと決めていた。

 私は大学受験に向けて必死に勉強していた。

 前世では、直樹に影響されて同じ高校に進み、彼と同じ美術コースを選んだ。彼と同じ専攻を目指すつもりで、その後を追い続けていた。

 それで満足していたし、彼の影で生きることに何の疑問も抱いていなかった。

 でも今は違う。私は美術コースをやめ、普通の生徒として進学することを決めたのだ。

 これからは自分の道を歩み、大学受験に挑む。

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