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第211話

この週末、拓海と詩織が婚約するらしい。

紗希はこのことをずっと前から知っていたが、改めて玲奈からそう聞いて、心が少し苦しくなった。

美咲は冷ややかに笑った。

「じゃあ、クズ男と悪女の長く幸せな結婚生活を祝福しましょう。それに、紗希の家はもうすぐ立ち退きになるんだから、もっといい条件の男と結婚できるわよ」

玲奈は笑いすぎてお腹が痛くなった。

「立ち退きだけで、そんなにいい条件を手に入れれる訳がないでしょう?」

紗希は、短気な美咲が手を出さないようにするために、直接美咲を連れて去った。

玲奈は渡辺家のお嬢様で、彼女たちには手が出せなかった。

一方、玲奈は紗希の背中を見ながら、すぐに奈美に電話をかけた。

「もしもし、紗希の家が立ち退きになるらしいわ。どういうことか調べてみて」

「分かった」

奈美は電話を切ると、心の中でとてもアンバランスな気持ちになった。

なぜ紗希だけがこんなに運がいいのか、どんな幸運に恵まれたら、家が立ち退きになるなんてことが起きるのか。

この世界は本当に人々を公平に扱わない。

一方、紗希は美咲を連れてそのフロアを離れた。

美咲はまだ理解できない様子だった。

「紗希、何を怖がってるの?あのクソ女の口をぶちのめしてやるわ。あんたの家が立ち退きで金持ちになるなんて、あいつが妬んでるだけよ」

紗希はため息をついた。

「美咲、嫉妬しているのではなく、あざ笑っているんだよ」

「おかしいわ。あんたが前に結婚した旦那さんはそんなにお金持ちだったの?」

紗希は少し黙ってから、前に掛かっている広告板を指さした。

「彼はこの会社の社長だよ」

「えっ?あんたの旦那は渡辺家の社長......」

美咲は自分の口を押さえ、驚きの表情を浮かべた。

「紗希、ずっと隠してたの?」

「私は婚前契約を結んでいて、拓海との関係を誰にも明かせなかったの。それに、私はずっと自分に自信がなくて、誰にも言わなかった。今、私が家を追い出されても、みんなは私が、自分のことを過大評価していると笑うに違いない」

美咲はこの事実を消化するのに時間がかかった。

ただため息をつくしかなかった。

「渡辺家で苦しまなくてすむように、離婚するのはいいことだよ。風間先輩がちょうどいいと思うわ!イケメンで、将来性もあるし、つり合いの取れたカップルの方が長続きするのよ」

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