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第200話

「紗希、前に担当していたXXマンションのプロジェクト、先方があなたの審美眼を高く評価していて、あなたに対応してほしいって指名してきたわ」

「分かりました、すぐに行って来ました」

紗希は電話を切ると、帽子とマスクをして人目を避けながらスタジオに向かった。

風間は彼女の姿を見て「まるで泥棒みたいだな」と言った。

「バレたらスタジオのみんなに迷惑かけるから気をつけているだけですよ。あのプロジェクトの続きは直接パソコンに送って。何か問題がないか確認するわ」

紗希が自分の席に座った途端、外から、怒り心頭の様子の人が入ってきた。

その目つきは今にも人を食べてしまいそうだった。

「紗希」

誰かが自分の名前を呼ぶのを聞いて、紗希が顔を上げると、思いがけない人物がいた。

来た人は奈美だった。

しばらく会っていなかった奈美は、やつれて老けたように見え、服装もだらしなく、何日もお風呂に入っていないようだった。

紗希は手の作業を止めて「どうしたの?」と聞いた。

風間はすぐに事務所から出てきて、紗希の前に立ちはだかった。

「奈美、お前はもう会社をクビになったはずだ。まだ面倒を起こしに来たのなら、容赦しないぞ」

奈美の表情が歪んだ。

「風間、どうしてこんな扱いをするの?あの夜私に言ったことを忘れたの?あなたは私に責任を持つと、私たちの関係が将来安定するのを待ってから公表すると言ったでしょう」

風間は表情が一瞬曇ったが、すぐに冷静に答えた。

「そんなこと一度も言っていない」

「ふん、やっぱり寝た後にそれを否定するんだ」

風間はイライラし始めた。

「奈美、お前のしたことはみんな知ってるんだ。あの時、自分がやったことを紗希のせいにしたのはお前だろう。今の状況は自業自得だ」

奈美が愛人だったことを知っていたら、絶対に手を出さなかった。

彼は何かの病気に感染するのを恐れて、病院に行って自分の体をチェックしたほどだ。

突然、奈美は目に涙を浮かべ、紗希の前にひざまずいた。

「今回のことは私が悪かった。ごめんなさい、許してください」

紗希は唖然とした。

さっきまで怒り狂っていたのに、急にひざまずくなんて。

周りを見回し、これは罠じゃないかと思った。

奈美の背後には玲奈という厄介な女がいるんだから、油断できない。

奈美は腰を低くしたが、内心では納得がいか
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