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第203話

一瞬、空気が静まり返った。

詩織も紗希とここで会うとは思っていなかったが、すぐに言った。

「拓海、今の男性が抱えていた女性、紗希に似てなかった?私の見間違いかしら?」

拓海は唇を固く結んだ。

間違いないだろう、あれは紗希だ。

しかも、紗希を抱えていた男は彼女のスタジオの社長ではないか?

拓海の心に不快な感情が涌き上がった。

彼は表情を曇らせて病院に入り、詩織はその後を追った。

「拓海、聞いてみない?もし本当に紗希なら、何があったのか確認した方がいいわ。離婚したとはいえ、元夫婦なんだから......」

「黙れ!」

拓海はその場に立ち止まり、男が紗希を抱えて救急室に向かうのを目で追った。

彼の表情は良くなかった。

「お前の兄さんはどこだ?」

「北兄さんは3階にいるよ。すぐに案内するわ」

詩織は拓海の不機嫌な様子を見て、心の中でとても喜んだ。

やはりこう言えば拓海は怒り、いずれ紗希のことは気にしなくなるだろう。

男に抱かれて病院に来た紗希を見ても、あの二人の関係が深いのは明らかだった。

拓海も普通の男で、そんなこと受け入れられるはずがない。

しかし、二人がエレベーターに乗り込んだ直後、階段の方から北が駆け下りてきて、救急室に向か宇野が見えた。

北はすぐに救急室に到着し、紗希の隣に立つ男が医師や看護師に状況を説明しているのを見た。

「突然倒れたんです。低血糖か、ショックを受けたのかもしれません」

北は目を細めて大股で近づき、診察を始めた。

「患者の状態は分かっている。関係者以外は外に出てくれ」

紗希はぼんやりと北兄さんの声を聞いて、やっと安心した。

北兄さんがいれば、何も問題ないだろう。

風間はまだ心配そうで、紗希に言った。

「紗希、外で待ってるから。怖がらないで」

北はこの男をじっくり見た。

妹の追っかけか?

イケメンで紗希のことをかなり気にかけているようだが、認める前にもう少し見守る必要があった。

誰でも彼の妹の婿になれるわけじゃない。

救急室内で、北は紗希を診察した。

妹が妊婦であることを知っていたので、すぐに状況をほぼ把握した。

30分後、紗希はようやく意識を取り戻した。

ぼんやりと目を開けると、白衣を着た北が傍にいるのを見て、ほっとした。

「北兄さん!」

「紗希、目が覚めたか。他に具合の悪いと
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