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第206話

詩織は考えるほど冷や汗が出て焦り、急いで拓海に言った。

「拓海、私はこの手術のために、みんなにもっと親しくなってもらおうと思っているのよ」

北は詩織の言葉を遮った。

「拓海は医者じゃないだろう。彼が僕と親しいのは何の意味があるの?」

詩織はもう冷静な表情を保つのが難しくなっていた。

拓海は冷たい表情で立ち上がり、怒りを抑えて北を見た。

「じゃあ、小林先生が病院に来て会議をする時に、また話し合おう」

拓海はそう言って事務所を出て行った。

詩織は前に出て拓海の腕を掴もうとしたが、冷たく振り払われ、さらに彼の目は氷のように冷たかった。

詩織は恥ずかしそうにその場に立ち尽くし、振り返って北を見た。

「北兄さん、そこまで言う必要はあったの?」

「詩織、俺の言ったことに嘘はないだろう?お前が拓海と結婚したがってるから、お前たちの仲はいいんだと思ってたが、さっきの拓海のお前への態度を見ると、彼がお前に感情を持ってるようには全然見えなかったぞ!」

「北兄さん、私と拓海はもうすぐ婚約するの。彼は私を好きなはずよ。さっきはちょっと誤解があって、不機嫌になっただけよ」

北は目を細めた。

「そうか?もしかして、手術を条件に拓海に結婚を迫ったんじゃないのか?」

詩織は顔色が急に悪くなりながら、すぐに否定した。

「そんなわけないわ。私と拓海は3年前から知り合いよ。あの事故さえなければ、とっくに彼と結婚してたわ。北兄さん、私はあなたが子供の頃から私のことをあまり好きじゃないのが分かってた。でも、私の幸せを壊すようなことはしないでほしいの」

「お前がそれを幸せだと確信してるなら、俺も何も言うことはない」

北の表情はあまりよくなかった。

「詩織、俺は子供の頃からお前のことをあまり好きじゃなかったけど、最初にお前が拓海と結婚するのに反対したのは、あの男がお前に相応しくないと思ったからだ。俺はお前のためを思ってるんだ」

詩織が実の妹でなくても、彼にはそこまで無関心でいられなかった。

詩織の目には嘲笑の色が浮かんでいた。

「私のため?北兄さん、本当に私のことを考えてるなら、もうこれ以上何も言わないで、渡辺おばあさんの手術をちゃんとやってくれればいいの」

詩織はオフィスを出て、急いで拓海を追いかけた。

彼女は自分が小林家の本当の令嬢ではないことをずっと知ってい
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