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植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた
Author: かんもく

第1話

今日は東京名門にあたる三千院家ご令嬢三千院とわこの結婚式だ。

新郎の姿の見当たらない彼女の結婚式なのだ。

なぜならば、新郎の常盤奏は半年前に車の事故で植物人間となり、余命も今年いっぱいだと医者に断言された。

失意のどん底に落ちたその際、常盤家の大奥さまは、息子が亡くなる前に、結婚させようと決めた。

常盤家が、東京での指折りの一流名門だといっても、死ぬ間際の人間の妻として喜んで嫁入りする令嬢は誰一人もいない。

鏡台の前に座っているのは、支度の整えたとわこ。

白いウェディングドレスに包まれた姿のしなやかで美しい彼女は、まるで雪みたいな白肌をしている。凝った化粧をしている彼女は一段と美しく見えて、まるでまるで蕾を膨らませ今にでも咲こうとしている赤いバラのようだった。

キョロキョロしているその大きくてつぶらな瞳には、恐懼という不安の色が見えた。

式開始まで、まだ二十分、彼女は絶えずにスマホのスクリーンをスライドして、ヤキモキしながら返事を待っていた。

無理矢理常盤奏との縁談話に乗せられる前に、とわこには彼氏はいた。

まるで嘘のような巡り合わせで、その彼氏というのは、常盤奏の甥っ子で、常盤弥だった。

ただ、その間柄はずっと伏せておいたままだった。

昨晩、彼女は弥にメールを送り、自分を連れて東京を脱出して、駆け落ちしようと彼に願ったが、一晩中待っていても返事は来なかった。とわこはもう、待っていられなかった。

椅子から立ち上がった彼女は、スマホを握りしめて、適当な口実を作って部屋を抜けた。

回廊を抜けて、とある休憩室の前を通ろうとしていたところ、彼女は驀然と足が止まってしまった。

閉めただけにしてあった休憩室のドアの向こうから、妹のはるかのかわいこぶった笑声が聞こえてきた。

「弥くん、きっとまだ弥くんが来るのを待っているのよ。あたしのバカ姉は!ねぇ、後で会ってあげなよ。もし後悔でもして、結婚してくれなかったら、どうするの?」

はるかを抱きしめている弥は、はるかの首に自分の薄い唇を走らせながら言った。「今更、あいつが嫁入りしたくないってわがままを言っても効かないんだろう?後悔したとしても、俺ん家の用心棒どもが多少強引な手を使っても、結婚させてやる!」

聞こえてくるはるかの笑声は先よりも耳障りだった。「弥くんが毎晩、あたしといるの、あの三千院とわこが知ったら、きっと発狂するよ。あははは!」

ガンーという轟音が脳内を通過したのをとわこは感じた。

身体中気が抜けたように、突然後退りした彼女は、転んでしまいそうだった。

両手でしっかりとウェディングドレスの裾を握りしめていた彼女は、まぶちから涙が溢れそうのを我慢した。

とわこの父親は、会社の金融連鎖の断絶で、この前に急病で入院したばかりだったというのに、

継母のすみれさんは、高額の結納金のために、常盤家との縁談話に応じてしまった。このことには三千院家の全てがかかっているとすみれさんはそう口で言っていたけど、これはあくまでも自分を家から追い出すための建前にすぎないと彼女はちゃんとわかっていた。

さらに、とわこの想像を超えたのは、自分のことが好きだと言い張った彼が、とっくに自分を裏切ってしまったことだった。

道理であの常盤弥は、「一応嫁として嫁いでやれば?常盤奏が死んだら結婚しよう」と自分を説得したわけだ。

全部うそだった!

平和で素敵だった生活の全てが粉々に砕かれ、彼女も絶望の抑圧で息をするのもは苦しくなった。

あの休憩室から漏れてきた物音がだんだん激しくなるのにつれて、握り拳を作った彼女の目には、危険で冷たい光が一瞬して消えた。

以前のとわこは愚か者だった。父親を困らせないため、彼女は黙って継母と妹からの虐めを一切合切耐えてきた。ただそれだけでは収まらず、三千院家の利益のため、遭わされた偏頗な待遇全てを、彼女はそのまま受け止めた。

でも、今のとわこはもうあの人たちに馬鹿にされないことを決めた!

彼女は自分のものを奪還するのだった!

間もなく、式が始まった。

角隠しを被り、花束を両手でささげて持ったとわこは、ロマンティックでエレガントな音楽に伴ってやってきた。

彼女は一人で誓いの言葉を読み上げ、一人で指輪をつけた。

野次馬から寄せてきた悪意に満ちた視線を、彼女はちっとも気にしていなかった。

今この瞬間をもって、彼女は常盤奥様だ。もう誰も彼女をいじめることができない。

ただ、彼女の夫、かつて東京を自分のもののように翻弄したあの男は、もう長くはないのだ。

夜、

とわこは、奏の豪邸へと送られた。

建築するのに二百億もかかったこの屋敷は、高級住宅街の中心部にあった。

別荘の中を一目見るのにも間に合えず、彼女は婆やの三浦さんに主寝室に案内された。

広いベッドの上に寝ている男はすぐ彼女の気を引いた。一歩一歩ベッドに近ついた彼女はやっと、彼の顔がはっきりと見えた。

彼の整った顔立ちはいささか西洋気味で、眉宇からする生まれつきの上品さがものを言った。

長時間昏睡状態が続いたせいか、彼の肌は異様なほど白く見えた。それでも、視線をそらすことのできない色男であることは変わらなかった。

男がそんなふうに昏睡状態に陥っていなかったら、とわこは決して彼の妻にはなれなかった。

車の事故で植物人間になる前の男は、世間を揺るがす力の持ち主だった。彼の司った常盤グループは、日本トップテンの会社の一つだった。

噂での奏は残酷無情な男で、性格も暴戻だと言われ、裏社会まで手が届き、彼に喧嘩売った相手の全ては、惨めな幕引きを迎えたと言われた。

自分がこのような男と結婚するとは、とわこは思いもしなかった。

彼女が気抜けをしているその瞬間に、寝室のドアが不意と開けられた。

常盤弥だった!

「とわちゃん、ごめんね!今日は忙しかったから、今やっと暇ができたの」常盤弥はあくまでも心が籠ったように装い、大股に歩き、とわこのそばに行って、謝った。

とわこはただ冷たく常盤弥を見ながら皮肉った。「私は弥くんの叔父さまの妻です。とわちゃんではありません。叔母さまです。お行儀悪ですよ」

「とわちゃん、もう怒らないで。駆け落ちしないのは、とわちゃんには苦労させた行くないんだから。叔父さまは息だけするの死人だ。そんな人と結婚しても、何もしなくて済むから。叔父さまが死んだら、俺が腕のいい弁護士先生を紹介するよ。必ず、莫大な遺産を手に入れてあげる!」

興奮した常盤弥はとわこの手を握って、こう言った。「その時が来たら、叔父さんの全てが俺らのものだ!」

ふっとこの男とはるかが不倫していたところを頭に浮かべたとわこは、虫唾が走った。

「離せ!」

彼女は鼻で笑い、常盤弥の手を強く振り払った。

とわこの怒鳴り声に、常盤弥はピンッと来なくて、固まってしまった。これは本当に自分の知っているあの三千院とわこなのか?

昔のとわこは、おとなしくて優しかった。大声で彼に口答えをしたことは一度もなかった。

もしかして、何か知られた?

少しばかり心細くなった常盤弥は、彼女に近付き、きっちりと弁解しようとしていたが、とわこの背後を目に収めた彼は、次の瞬間、まるで鬼でも見たかのように、信じがたく目を丸めた。

「お、叔父…」

ベッドの上に寝ていた奏は、突然目を開いた…

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