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第8話

翌日、北條守は勅命を受けて宮中に入った。彼は今や朝廷の新進気鋭の将軍。すぐに陛下に拝謁できるものと思っていた。

だが、御書院の外で丸一時間も待たされた末、吉田内侍がようやく出てきて言った。「北條将軍、陛下はただ今ご多忙とのこと。一度お戻りになり、後日改めてお召しするそうです」

守は唖然とした。これほど長く待たされたというのに、大臣の出入りも見なかった。陛下が朝臣と政務を協議していたわけではないようだ。

彼は尋ねた。「吉田殿、陛下が私を呼び出された理由をご存じありませんか?」

吉田内侍は微笑みながら答えた。「大将軍、それは存じ上げません」

守は不可解に思いながらも、陛下に直接問うわけにもいかず、「吉田殿、私が何か過ちを犯したのでしょうか?」と尋ねた。

吉田内侍は相変わらず笑みを浮かべたまま答えた。「大将軍は凱旋されたばかり。功績はあれど過ちなどありませんよ」

「では、陛下は…」

吉田内侍は腰を曲げ、「大将軍、お帰りください」

守がさらに問おうとしたが、吉田内侍はすでに石段を上がっていた。彼は不安を抱えたまま立ち去るしかなかった。

祝宴で陛下は彼と琴音を大いに褒めたというのに、たった一日で態度がこれほど冷たくなるとは。

彼が宮門で馬を引こうとしたとき、正陽門を守る衛士たちの私語が聞こえてきた。「昨日、大将軍の奥方が来られたそうだ。今日は大将軍本人が。もしかして賜婚の件で何か変わったのかな?」

「馬鹿なことを。陛下が臣下と民の前で許可なさったのだ。変わるはずがない」

守の眉間にしわが寄った。足早に戻ってきて尋ねた。「昨日、私の妻が宮中に?」

二人の衛士は躊躇いがちに頷いた。「はい。ここで一時間ほど待たれ、その後陛下にお会いになりました」

守は昨日一日中葉月家にいて、さくらの行方を知らなかった。まさか彼女が宮中に入っていたとは。

なるほど、今日の陛下の態度が一変したわけだ。さくらが宮中に入り、賜婚の勅命撤回を求めたのだ。なんと狡猾な!

琴音が昨日さくらのために弁解していたのに。不満を抱くのは当然だと。女の心は狭いものだと。さくらを責められない、と。

守は馬を走らせて屋敷に戻り、馬から降りるや門番に鞭を投げ、文月館へと直行した。

「さくら!」

お珠はこの怒鳴り声に驚き、急いでさくらの前に立ちはだかった。慌てふためいた様子で守を見つめ、「将…将軍様、何をするつもりですか?」

「お珠」さくらは穏やかに言った。「下がりなさい」

お珠はさくらの言葉を聞いて横に退いたが、まるで小さな虎のように警戒を解かなかった。

守はさくらを見た。彼女は静かに椅子に座っていた。彼女が宮中で陛下に勅命撤回を求めたと思うと、わずかに残っていた後ろめたさも消え失せた。

彼の冷たい視線がさくらの黒く静かな瞳と合った。「お前、陛下の前で泣き言を言って、賜婚の勅命撤回を求めたな?」

さくらは首を振った。「違います」

「違う?」

彼は皮肉っぽく言った。端正な顔に軽蔑の色が浮かんでいる。「やったことを認められないなんて、武家の娘のすることじゃないぞ。さくら、お前は本当に偽善者だ」

さくらは目の前の怒れる男を見つめた。彼女には彼がまるで見知らぬ人のように思えた。心の底まで冷え切るほどに。

これが自分の知っている北條守なのかと疑うほどだった。あるいは、彼女は本当の彼を知ることなど一度もなかったのかもしれない。

守はさくらが黙っているのを見て、それを罪の意識のせいだと思い込み、目に怒りの炎を燃やしながら言った。「何か言えよ。陛下に他に何を言った?陛下はお前の願いを聞き入れて、勅命を撤回すると約束したのか?」

さくらは目を伏せて言った。「陛下は承諾なさいませんでした。あなたたちの婚儀は予定通り執り行われます」

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