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第12話

お珠は自分の主人がこのように虐げられるのを見て心を痛めた。上品な作法を重んじるさくらが言えないことを、粗野な下女の自分なら恐れることなく言えると思った。目に涙を浮かべながら、お珠は琴音に向かって言った。「私なんぞ卑しい下女でも礼儀と恥を知っております。あなたは朝廷の女将軍というお立場なのに、戦場で人の夫と怪しげな関係を持ち、今では軍功を盾に私の主人をいじめるなんて…」

「パシッ!」

鋭い平手打ちの音がお珠の頬に響いた。

北條守はお珠の頬を強く叩くと、冷たい目でさくらを睨みつけた。「これがお前の教育した下女か?礼儀知らずめ」

さくらは素早く立ち上がり、お珠のもとへ駆け寄った。お珠の頬がたちまち酷く腫れ上がっているのを見て、守がどれほどの力で叩いたかが分かった。

さくらは振り返ると、鋭い眼差しで守を見つめ、思わず手を上げて彼の頬を平手打ちした。「私の者を、好き勝手に叩いたり罵ったりしていいと思っているの?」

守は愕然とした。まさか一人の下女のために、自分を平手打ちするとは。男の顔を、女が軽々しく叩くなど許されることではない。しかも琴音の前で。

しかし、彼は仕返しはできず、たださくらを冷たく睨みつけ、琴音を連れて立ち去った。

さくらはお珠の頬を撫でた。「痛い?」

「大丈夫です」お珠は泣かずに笑顔で答えた。「もうすぐ将軍家を出られるんですもの」

「陛下は数日中に勅令が来ると仰っていたわ。いつになるかしら」さくらは一刻も早くここを離れたかった。

北條守から賜婚の話を聞いた時、さくらが琴音に会いたいと思ったのは、彼女に好感を持っていたからだった。朝廷初の女将軍という立場の彼女なら、夫を他の女性と共有しようとは思わないだろうと。

しかし今日彼女に会い、その言葉を聞いて、さくらの幻想は完全に打ち砕かれた。

琴音将軍に対する失望は計り知れないものがあった。

二人の結婚式は十月に決まっていた。今はもう八月半ばで、準備は急ピッチで進められるはずだ。しかし、家中で結婚の準備を取り仕切れる者といえば、さくら自身か、次男家の叔母である第二老夫人しかいなかった。

だからこそ、さくらは北條家の人々が自分に結婚の準備をさせようという考えを断固として拒否しなければならなかった。

結局、結婚の準備は第二老夫人に任されることになった。二老夫人は守のような薄情な男を心底嫌っていたが、親族の情に免じて、そして長姉の美奈子が本当に病気だということで、仕方なく引き受けたのだった。

結納の前夜、二老夫人は北條守と家族の全員を呼び集めて相談することにした。老夫人はどうしてもさくらにも出てくるよう言い、さくらは彼らの魂胆が分かっていたが、彼らがどこまで厚かましいのか聞いてみたいとも思った。

北條守の父である北條義久、叔父の北條剛、そして守の弟と妹も全員そこにいた。

婚約の際に相手側から提示された結納金と結納品のリストが用意されており、リストにある基本的な品々は叔母が既に準備済みだった。

今問題になっているのは結納金と結納品の部分で、叔母一人では決められないため、みんなで知恵を絞ろうということだった。

北條義久はすでにリストに目を通していた。「とても用意できるものではない」と即座に言い放った。一年前にさくらを娶った時、上原夫人は北條の老夫人が常に薬を必要としていることを知り、家計が豊かでないことを理解して、結納金は500両と普通のアクセサリー程度しか要求しなかった。

それどころか、さくらの持参金は莫大だった。屋敷に田畑、商店まであり、現金だけでも10万両。家具や錦、寝具などは一つの部屋に収まりきらないほどだった。

この一年間、さくらは自分の持参金を使って家計を助け、丹治先生を招いて薬を処方してもらうことができた。

もしそれがなければ、北條守が出陣してから一ヶ月も経たないうちに、老夫人は亡くなっていたかもしれない。

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