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第4話

再び目を開けると、白い天井が見えた。

胃の奥に残る細かい刺すような痛みが、さっきの出来事を思い出させる。

病室のベッドのそばに目を向けると、案の定、やんちゃそうな美しい顔が見える。

「おやおや、うちの純情乙女の結衣さんが目覚めたね?どう?俺でガッカリしたかい?心の中で思い焦がれていた旦那さんじゃなくて」

高橋志保が意地悪く笑いながら言う。

「何言ってんのよ!」

白い肘が志保の腹を強く突いた。

そちらを見ると、彼の隣に背が高く、優雅な長い髪の女性が立っている。

私の視線に気づいたその女性が、こちらを向き、微笑んだ。

「はじめまして、早川素香と言います。素香と呼んでくださいね。私は志保の彼女です。安心して、あなたに宣戦布告しに来たわけじゃない。私はあなたと志保の関係を信じてるし、彼が私を裏切るようなことはしないと信じているから」

私は素香の目を見つめた。その瞳には、柔らかな申し訳なさと哀れみが宿っていた。

「実は、あなたの作品に惹かれて、少し興味本位で志保からあなたのことを聞き出してしまった。ごめんなさい、少しプライバシーに踏み込んでしまったかもしれない。それについて、許さないでも、嫌いになっても構わない」

「ここに来たのはただ、あなたに伝えたかったから。私はあなたの作品の中にある、そのどんな絶望にも屈しない勇気と希望にあふれた強さが好き。そして、あなた自身も大好きよ。あなたは数え切れないほどの人々に敬愛されるに値する人だと思う」

「だから」彼女は穏やかながらも、力強く続けた。

「どうしてそんなにも悲しみと絶望に囚われ続けているのかわからないけれど、きっとあなたは作品のように、希望を抱いて生まれ変わると信じているわ。そうでしょ?」

私は唇を噛みしめ、涙を流した。

長い間感じなかった心の鼓動が、確かな答えを告げていた。

この一年間の屈辱と抑圧で、私は自分を見失いかけていた。

でも、どれだけ麻痺しても、私の心はまだ燦々と輝く太陽と温かい愛を求めている。

修二を愛しているけれど、自分を失うほど愛するわけにはいかない。

彼を愛するあまり、私を愛してくれる人たちを犠牲にするわけにはいかない。

「もちろんよ」

私はそっと答えた。

この返事は素香に向けてでもあり、私自身へのものでもあった。

私はもちろん、心に太陽を抱き、炎の中から生まれ変わるつもりだ。

「ということは、イギリスに行くのを承諾したってこと?やっとだよ!医者が危篤通知を出してから、君はどれだけ引き延ばしてきたと思ってるんだ?」

横で黙って聞いていた志保が、嬉しそうに尋ねた。

「あなたのお金で治療を受けるのに、そんなに喜んでくれるの?」

ようやく心を整理し始めた私は、少し軽くなった気持ちで、久しぶりに冗談を返した。

「使いな使いな。どうせあとで働いて返してもらうんだから。君の作品の値段と市場を考えれば、いくつか盗んで売りに出せば逆に儲かるかもしれないし」

志保がふざけたように言った。

「それで、いつ出発する?それと、聖人君子の志保さんは、いつになったらあの薄情な旦那さんに全てを打ち明ける気?」

「もうすぐだ。今月中には、すべてのしがらみが終わる」

私は視線を広々とした自由な窓の外の景色に向けた。

「それから、志保、お願いがあるんだけど……」

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