共有

第5話

知っていた。林原誠司がわざとそうしていることを。

しかし、当時、研究所の重要プロジェクトは正念場を迎えていて、とても大事なタイミングだった。

そんなことに構っている暇もなく、2ヶ月以上研究所にこもりっきりで、ついに最も正確なデータを得ることができた。

大成功だった。

涙を流しながら、パソコンで論文の最終的なまとめ部分を打ち込んでいた。

しかし、思いもしなかった。

この重要な論文を、発表する機会がないまま、人生を終えることになるとは。

橋本美弥は私の研究室にこっそりと監視カメラを設置していた。

それで、いち早く私の様子がいつもと違うことに気づいた。

「大変だ、月華さん」

「今夜、殺人事件が起こって、誠司が遺体の検査中に突然倒れたの!でも、こちら手が足りないから、病院に連れて行ってくれるかい」

橋本美弥は、音声合成ソフトを使って、諏訪部警部の声を真似ていた。

何も疑うことなく、彼女が指定した場所へと車を走らせた。

それは、私の人生の終着点だった。

「まさか、白衣を着た美人とはな」

「いいぞ!制服誘惑で遊べるぞ」

車から降りる間もなく、黒頭巾をかぶった男たちが私を取り囲み、鉄パイプで殴りかかってきた。

逃げようとしたが、彼らは私を引きずって廃墟となった倉庫へと連れて行った。

服は破られ、男たちの狂喜した声が耳をつんざいた。

足元には、血が広がっていた。

私は妊娠していたのだ!

研究所の放射線量が多いため、妊娠がわかった時は、本当に嬉しかった。

しかし、林原誠司との関係が冷え切っていたため、伝えていなかった。

この結婚生活を続けるべきかどうか、考え直そうと思っていた。

しかし…。

「お兄ちゃんたち、ご苦労様でした」

私が瀕死の状態になった時、橋本美弥がニヤニヤしながら現れた。

「なんでこの人が妊娠していることを事前に言わなかったんだ」と、先頭の男は、不満そうに言った。

橋本美弥の目にも、驚きがよぎった。

「じゃ、残りはお前でやれ」

あの男は彼女の手を掴んで言った。

「今日はダメよ」

橋本美弥は、嫌悪感を隠しきれない様子だったが、笑顔を作ってで言い訳をした。

男は彼女の顔に平手打ちを食らわせた。

「くそ女!お前も白衣を着たからって、偉くなったつもりか」

「撮られたビデオを、今すぐお前の恋人に見せてやろうか」

「やめて」

橋本美弥は慌てた。

というのは、彼女が言っていた、大物にハリウッドに連れて行ってもらうというのは、こういうことだったのだ。

男たちが去った後、私への恨みを晴らすかのように、私を痛めつけた。

「どうして」

「あんたには才能も、成績も、成果もある」

「あたしは苦労してやっと帰国できたのに、誠司は待っていなかった」

「どうやって誘惑したの」

「死ねばいいのに」

「あんたが死ねば、あたしは誠司を取り戻せる」

橋本美弥は、鉄パイプで私の骨を砕き、ナイフで顔を切り裂いた。

そして、熱した松脂を浴びせかけた。

「あんたに誠司の子供を妊娠する資格はない!」

「彼の子を産めるのはあたしだけよ!」

橋本美弥は私を縛り上げ、口を塞いだ。

体内の松脂で意識を失いかけた私に、アドレナリンを注射した。

そして、私の胸と腹に強酸性の硫酸を注入した。

耐え難い苦痛に襲われたが、骨が砕けているため、身動きすることさえできなかった。

彼女は高笑いしていた。

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status