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第4話

「油煙の臭いは嗅覚に影響を与える。遺体の臭いを誤認する可能性があるから」

「僕の手は遺体を解剖するためにある。包丁のカーブは指先の神経を傷つけやすい。ミスをしたらどうするんだ」

あの時の林原誠司の言葉を思い出し、苦笑をするしかない。

すべて言い訳だった。

愛していないからだ。

あの頃の私は、その言葉を真に受けていた。

毎日、彼の嗅覚や味覚に影響がないように、色どり、香り、味のバランスを考えながら、食事作りに心を砕いていた…

なんて愚かだったのだろう!

あの頃の私は、橋本美弥という存在を知らなかった。

それに、最初から向こうが積極的に口説いてきたのだ。

結婚して半年を経ち、林原誠司が酔って帰宅して、私を橋本美弥と間違えた。

その時初めて、彼の心の中に忘れられない人がいることを知った。

彼らは幼馴染で、同じ大学に通っていた。

しかし、卒業の年、橋本美弥は彼を振った。

地中海出身の大富豪が、ハリウッド女優にするために資金援助を申し出たのだ。

橋本美弥は連絡先をすべて変え、姿を消した。

時間が経ち、ある学会で、私たちは出会った。

彼は堂々と発表する私の自信に惹かれ、知り合いたいと言ってきた。

それから2年間、熱心に追いかけてくれた。

当時の彼は、礼儀正しく、とても親切だった。

自然に、心を奪われた。

しかし、結婚式の当日、橋本美弥が現れた。

彼女は上品で少し寂しげな笑みを浮かべ、私たちに結婚おめでとうと言った。

林原誠司は彼女を見て、しばらくの間、茫然としていた。

その日から、私たちの結婚生活は、期待とは違う方向へと進んでいった…

「いつも疑り深くなっていないか?優秀な研究者なのに、まるで頭のおかしいばあばあみたい」

「前も残業しているのを見たことがないのか」

「それに、別れた後でも普通の友達でいてはいけないという法律でもあるのか」

「こんなふうに騒ぎ立てたら、がっかりさせるぞ、上谷月華」

しかし、ただの友達が七夕に二人きりで映画館に行くのだろうか?

ただの友達が、相手が既婚者だと知りながら、下着を誕生日プレゼントに贈るのだろうか?

真夜中、夫婦で愛し合っている最中に、電話がかかってきたら妻を置いて出かけていて、彼女にナプキンを届けに行くのか?

一体、誰が誰に失望するべきなのだろうか…。

そして、私は出張から早めに帰宅した日。

寝室で、彼が電話をしているのが聞こえた。

「美弥、ごめん」

「月華がいなければ、迷わずお前のところへ行く」

「でも、彼女とは長い付き合いだし、いろいろ助けてもらっている。突き放すことはできない」

そういうこと?彼の目には、私はただの便利な道具だったのだ!

責任感という仮面を被った、偽善者!

ある日、彼は私に頼み事をした。

橋本美弥を研究チームに入れたいと。

専門分野が共通しているから、私の役に立つだろうと。

そして、私たちは結婚してから一番の大喧嘩をした。

「国の研究の未来を危険に冒すことは絶対にできない」と断固として拒否した。

彼はついに仮面を脱ぎ捨てた。

「月華、君がこんなに心が狭いとは思わなかった」

「美弥が僕に近づくのが嫌なんだろ」

「そんなもっともらしい理由をつけて、美弥のキャリアを邪魔しようとするなんて」

「見損なったよ」

「こうなったら、君とは距離を置くぞ!わかったか」

結局、彼はプライドを捨てて、多くの懇親会に顔を出して頭を下げ、橋本美弥を研究チームに押し込んだ。

ポジションは私の助手だった。

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